2003年英語版に ジャンプします。
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解 説
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フタフシアリ亜科はアリ科の中で最も多くの属を含み,形態的にも生態的にも多様性に富む。
働きアリは,外皮が厚く,頭部額隆起縁は発達の程度は様々であるが,一般に触角挿入部をおおい(アミメアリ属 Pristomyrmexなどは例外),頭盾後部は額隆起縁の間の左右の触角挿入部を結ぶ線に達するかそれより後方に伸びる。額域は属によっては不明瞭。複眼は属あるいは種によって発達の程度は様々であるが,完全に消失するものはない。単眼は多くの属で欠失するが,まれにヨコヅナアリ属 Pheidologetonの大型働きアリのように,現れるものもある。大あごは形,歯の配列,挿入部位などきわめて多様性に富み,属や種を区別する際の重要な分類学的形質となる。触角も,もっとも少ない4節(ウロコアリ属 Strumigenys など)から12節まで様々で,先端の数節がこん棒部を形成する属も多い。
前中胸縫合線は痕跡的に残っている属もあるが,その場合でも前胸背板と中胸背板はかたく結合しており,可動性はない。前伸腹節後背部には前伸腹節刺として突起を形成する場合も多いが,その程度は属や種により様々である。腹柄は常に2節(腹柄節と後腹柄節)よりなる。腹部末端の刺針はクシケアリ属 Myrmicaのようによく発達するものから,シリアゲアリ属 Crematogasterのように刺針としての機能を失ったものまで変化に富む。なお働きアリ階級が顕著な2型あるいは,連続的な多型を示す場合もある。
雌アリは働きアリに比べきわめて大型で,よく発達する複眼,3個の個眼をもち,胸部は頑丈で大きく,各部は縫合線によって分割されている。腹柄は働きアリ同様2節からなる。翅脈は属によって変化に富み,ハリアリ(ponerine)型の2つの亜前縁室(肘室)をもつもの(オオズアリ属 Pheidoleなど)から,ヤマアリ亜科に見られるようなFormica型のもの(シワアリ属 Tetramoriumなど),Camponotus型のもの(ムネボソアリ属 Temnothoraxなど),さらにはウロコアリ族(Dacetini)の多くに見られるように,ほとんどの翅脈が退化消失するものなど様々である。
雄アリは,複眼,単眼,胸部は雌アリ同様よく発達するが,大あごは一般に同種の働きアリや雌アリに比べ退化する。前伸腹節刺や腹柄節の隆起なども,発達が弱い。腹柄は働きアリ同様2節からなる。
なお,このような階級の形態的相違は亜科を通じてかならずしも一定しておらず,例えばハダカアリ属Cardiocondyla の一部の種では働きアリ型の雄アリが出現する場合もあり,またヨコヅナアリ属やカレバラアリ属 Carebara の一部の種の大型働きアリ(兵アリ)では,外部形態は雌アリに類似する。
食性は一般に雑食性であるが,多くのウロコアリ類のように土壌中の小型節足動物を専門に捕食したり,クロナガアリ属 Messorのように種子を専門に集めたり,ハキリアリ属 Attaのように菌食のものもいる。生活場所は種により異なり,地上徘徊性のものの他,ほとんど土中性のもの(多くのウロコアリ類など),樹上性のもの(シリアゲアリ属の一部など)など様々である。また社会寄生性の種も知られている。個々の種の詳しい生態については,近年急速に解明されつつあるが,日本産に限っても未知の部分が多い。
現生のフタフシアリ亜科は約140属2000種以上からなる。日本産アリ類に限っても,本亜科の種数は全種数247種のうちの約50%を占める。しかし,分類はきわめて不十分であり,日本産の種に関しても約40%は学名未詳種として残されている。族に関しては,Emery (1921, 1922)以来いくつかは再検討されているものの,多くは定義のあいまいなまま残されている。Kugler (1978a, 1978b, 1979, 1986)は刺針の比較形態から属間の系統関係を推定しているが,取り扱われた属はまだ十分とはいえず,族レベルの分類は属間の系統関係ともども将来的な課題である。
亜科としては,汎世界的に分布する。ツヤクシケアリ属 Manicaのように全北区型の分布をする属もあるが,大部分の属は熱帯や亜熱帯に多く,広域に分布する属でも暖かい地方では種数が多くなる。
日本産の本亜科の属の概要については Ogata (1991)がまとめており,また属までの検索についても緒方(1985a,1985b)や日本蟻類研究会(1991b)のものがある。
日本産フタフシアリ亜科の属とそれらの世界的な分布は表のようにまとめられる。「和名一覧」(日本蟻類研究会, 1988)では29属95種について,和名を整理していた。その後いくつかの属について追加・変更がなされた。また,学名未詳ではあるが多くの種を今回新たに区別し,本書では29属124種を取り扱っている。
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文 献
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- Emery, C. (1921). Hymenoptera, fam. Formicidae, subfam. Myrmicinae. . In P. Wytsman, ed., ""Genera Insectorum"", fasc. , 174A, 1-94. .
- Emery, C. (1922). Hymenoptera, fam. Formicidae, subfam. Myrmicinae. . In P. Wytsman, ed., ""Genera Insectorum"", fasc. , 174B-C, 95-397, .
- Kugler, C. (1978a. ). A comparative study of the myrmicine sting apparatus (Hymenoptera, Formicidae). . Stud. Ent., 20, 413-548.
- Kugler, C. (1978b. ). Further studies on the myrmicine sting appatatus: Eutetramorium, Oxypomyrmex and Terataner (Hymenoptera, Formicidae). . Psyche, 85, 255-264.
- Kugler, C. (1979). Evolution of the sting apparatus in the myrmicine ants. . Evolution, 33, 117-130.
- Kugler, C. (1986). Sting of ants of the tribe Pheidologetini (Myrmicinae). . Insecta Mundi, 1, 221-230.
- Ogata, K. (1991). A generic synopsis of the poneroid complex of the family Formicidae in Japan (Hymenoptera). Part II. Subfamily Myrmicinae. Bull. Inst. Trop. Agr., . Kyushu Univ., 14, 61-149.
- Ogata, K. (1985a. ). Classification of Japanese ants (3)-Key to the genera of Myrmicinae-. . Nature Study, 31, 102-104. .
- Ogata, K. (1985b. ). Classification of Japanese ants (4)-Notes on the genera of Myrmicinae-. . Nature Study, 31, 125-128. .
- Myrmecological Society of Japan, Editorial Committee (ed.) (1991a.). A guide for the identification of Japanese ants (II). Dolichoderinae and Formicinae (Hymenoptera: Formicidae). The Myrmecological Society of Japan, Tokyo.
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担当者
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吉村正志(2007改訂)、緒方一夫・小野山敬一(〜2003)
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