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アリQ & Aコーナー |
テスト。アリ類データベースには,アリについての質問が沢山きます.その中から,主なものを選んで解説をしました. まだメニューの数はあまり沢山ではありませんが、アリの知識豆事典としてお使いください. またアリについてもっと知りたいことや聞きたいことがありましたら, アリ類データベース作成グループまでご連絡ください. 皆さんの質問を踏まえて、内容をさらに充実させたいと思います。
メニュー一覧:
アリの種類
アリは高度な社会性を発達させた昆虫で、南極と北極を除いて世界中に分布しています.分類学的には,ハチの仲間(ハチ目)のアリ科に属します.日本には現在8亜科56属277種のアリが知られています.世界にはもっとたくさんのアリがいて,17亜科297属約8,800種知られています.東南アジアやアマゾンなどの熱帯のジャングルには,まだ記載されていないアリがたくさんいるので,それらを入れると2万種を超えると考えられています.今井弘民
文献:Holldobler and Wilson (1990), Baroni-Urbani et al. (1992), Bolton (1994).
アリの家族
アリはミツバチやシロアリと同じように社会生活をする昆虫です.クロオオアリのように典型的なアリの家族は,1匹の女王アリと呼ばれる雌アリと数100匹の働きアリから構成されています.働きアリの数は種によって違いますが,少ない種では10匹(クビレハリアリ),多い種では数万匹(トビイロケアリ)から数10万匹(エゾアカヤマアリ)にもなります.世界にはもっとすごい数になるアリが知られていて,南米に住むグンタイアリは数100万から数1000万匹といわれています.
働きアリは遺伝学的には雌アリですが,栄養が十分に与えられないまま発育したために,体が小さく卵巣が発達しないため卵を産むことができません.働きアリの大きさは普通どれも同じくらい(単形)ですが,クロオオアリのように大きさに連続的なばらつきがある場合もあります.そんな場合は,大きめの個体を大型働きアリ,また小ぶりの個体を小型働きアリと呼ぶことがあります.また,アズマオオズアリのように種類によっては,大形働きアリと小形働きアリにはっきり分かれ(二形),大形働きアリの頭が特別に肥大化することがあります.このような大形働きアリは兵アリとよばれます.
成熟した巣では,春から夏にかけて羽(翅)のあるアリが育ちます.これらは次の世代を担う雄アリと雌アリです.羽アリは成虫になるとすぐに結婚飛行のために巣から飛び立つので,アリの社会では一時的なお客さんです.羽アリは普通春先に産まれた卵から育ち,梅雨明けから夏にかけて巣立ちますが,クロオオアリなどは,秋に産まれた卵から育ち,巣の中で冬を越して次の春5月頃に巣立ちます.雄アリは結婚飛行を終えるとすぐに死んでしまいます.一方雌アリは,結婚飛行を終えると地上に降りて翅を落とし,石の下など穴を掘り自分の体が入る程度の小部屋(巣)を作ります.巣作りを始めた雌アリを通常女王アリと呼びます.
アリの家族構成(カースト)
例1:クロオオアリ
女王アリ…………………………………… 1匹 働きアリ…………………………… 数100匹 大型働きアリ(10-12 mm) 小型働きアリ(7-9 mm) 羽アリ (雄アリ) (雌アリ)例2:アズマオオズアリ女王アリ…………………………………… 1匹 働きアリ…………………………… 数100匹 兵アリ(3.5mm)…………… 数10匹 小形働きアリ(2.5mm)… 数100匹 羽アリ (雄アリ) (雌アリ)アリの家族の役割
成熟したアリの巣では,女王アリは卵を産むだけで何もしません.一方働きアリは,女王アリの卵からかえった幼虫を育てるために餌集めをしたり,手狭になった巣穴を大きくしたり,食べ物のかすを捨てるなどの雑用を引き受けます.また兵アリは,外敵から巣を守るためや大きな獲物を解体するために役立ちます.このようにアリの社会は,雌が中心になって仕事を分担しながら集団生活をしますが,女王アリ・(大形・小形))働きアリ・兵アリとそれぞれの仕事の役割に応じて体のつくりも変えています.このような形の分化をカーストとよんでいます.
例外的な家族構成のアリ
アリの中には,非常に変わった社会をつくるものもいます.例えば,アミメアリは行列を作るので有名ですが,働きアリだけが集団で生活していて,雄アリや雌アリ(女王アリ)がいません.働きアリは卵巣を持っていて,単為生殖といって結婚飛行なしに卵を産みます.生まれた幼虫は育つと再び働きアリになる不思議なアリです.
ヤドリウメマツアリという寄生性のアリが知られています.このアリは,ウメマツアリに寄生して生活するため普段は雌アリだけで働きアリがいません.社会性進化の一つの極限状態です。
普通のアリの巣には女王アリが1匹ですが,ヒメアリやエゾアカヤマアリでは,1つの巣にたくさんの女王アリが住んでいます(多雌性).これは結婚飛行に巣立った雌アリが再び元の巣にもどって一緒に生活するためです.普通のアリの巣は女王アリが死ぬと絶えてしまいますが,一つの巣に沢山の女王アリがいると,1匹の女王アリが死んでもその巣は絶えることがありません。こうして,エゾアカヤマアリでは1つの巣が数10年にわたって繁栄を続けます。多雌性はより高度なレベルに進化した社会体制と考えられています。今井弘民
アリの社会とヒトの社会
生き物の中には,トラのように1匹で生活する種類もいますが,たいていは群れを作って生活しています.弱い生き物ほど群れを作りやすいようです.1匹1匹では弱くても,群れることによって敵から身を守り餌を探すときにも有利になるからです.群れの中には,メダカのようにリーダーがはっきりしない群れもありますが,日本ザルのように腕力が強く統率力のあるボスに率いられた秩序のある群れも知られています.群れの中に秩序ができて,仕事の役割分担が確立したとき,群れは社会と呼ばれます.この意味で,アリもヒトも社会性動物です.しかし,それぞれの社会の仕組みは非常に違っています.
ヒトの社会は,世界の多くの国が民主主義社会を目指しています.そこでは個人の意志が尊重され,能力に応じて職業を選択する自由があり,同時に社会的弱者を保護する福祉制度があります.またヒトは道具を発明し,手足の延長として使います.そのためヒトは,職業によって風ぼうが変わることはありますが,男女ほとんど同じ体形をしています.
これに対してアリの社会は,雌アリを中心とした全体主義的社会を目指しています.そこでは個々のアリの意志よりも,種族の繁栄が優先されます.幼虫は大切に育てられますが,老人福祉はありません.成虫はそれぞれに定められた役割に従って命あるかぎり黙々と働きます.さらにアリはヒトと違って自分の体を道具として使います.このため雌アリは生まれたときは同じでも,その時々の社会のニーズと役割に応じて,産卵のためお腹が肥満した女王アリ・戦うための巨大な頭を持った兵アリ・雑用専用の貧弱で卵も産めない働きアリと体の形を作り変えてしまいます(アリの家族参照).今流行の言葉でいえば,形を決める遺伝子の発現を幼虫に与える栄養を調節して自在にコントロールできるのです.ただし同じアリでも,雄アリは(結婚飛行で子孫を残すこと以外)アリの社会では無用の存在なので,いまだに先祖のハチに近い形のままです.
アリは,1億年前にすでに形態分化を伴った分業による高度な社会性を獲得し,数1000万年前にはキノコを栽培するハキリアリやアリマキを飼育してミツを採るトビイロケアリなどの農耕や牧畜をするアリが進化しています.ヒトはといえば,最初に地球上に現れたのは数100万年前ですが,長い間木の実を採り獲物を狩るその日暮らしが続きました.農耕が始まって文明と呼ばれる高度な社会が開花したのはわずか数1000年前のことです.日本では数100年前に将軍を頂点に武士・農民・職人・商人と生まれながらに身分が固定された封建社会が出現しましたが,それぞれの階級に固有の遺伝子は定着しませんでした.生物進化にとって数100年や数1000年という時間はあまりにも短すぎるのです.
最近遺伝子の仕組みが解読されたので,理屈の上では,アリのように子作り人間・戦闘人間・働き人間などを遺伝子操作で自由に作れる日が来るかもしれません.倫理問題が取りざたされているクローン人間などはその第1段階です.しかし,それはヒトの目指す理想の社会でしょうか?アリでは与えられた体形と役割に愚痴をこぼすことなく,命有るかぎり任務を遂行します.アリには感情や欲望や苦悩がないからです.「在りのまま無心に生きること」を始めて説いたのは古代インドの釈迦ですが,以来二千数百年,未だに煩悩の到達しえぬ理想の境地として語り継がれていることを考えると,アリ達が1億年も前に到達した社会がヒトの社会をはるかに超えた驚異的な社会であることがお分かりいただけると思います.今井弘民
シロアリ
シロアリはアリではありません.ゴキブリやカマキリに近い昆虫です.分類学的には,アリはハチ目(膜翅目)に属しますが,シロアリはシロアリ目(等翅目)に分けられます.約4億年前の石炭紀にゴキブリの仲間から進化したと考えられています.主に熱帯圏を中心に7科2000種程知られており,日本には4科16種が生息しています.イエシロアリとヤマトシロアリが代表的な種で,共に家屋の木材を食べる害虫です.
シロアリとアリは,どちらも高度な社会性を発達させていますが,系統的には非常に離れた昆虫です.つまり2つの社会性は独立に進化したことになります.ですから表面的にはよく似ていますが,よく見ると色々な違いがあります.
まずアリは雌社会で女王アリ・兵アリ・働きアリは総て雌性ですが,シロアリは雌雄共同社会です.そこでは生殖階級と労働階級に社会的役割が分けられ,生殖階級には女王アリと王アリがいて,労働階級には雄と雌の兵アリと働きアリが分化しています.
もう1つアリとシロアリが違う点は,アリの幼虫はウジ虫形で手足がなく働きアリによって大切に育てられますが,シロアリは産まれるとすぐに働き手になります.これはアリが卵→幼虫→蛹→成虫と完全変態をするのに対して,シロアリは不完全変態で産まれたときすでに親と同じ形をしていて一人前に働くことができるためです.平たく言えば,アリの子供は過保護に育てられ,シロアリの子供は過酷に働かされるわけです.この点人の社会は,子供の労働が法律で禁止されており,教育ママのもとで過保護に育てられるので,アリ型社会に近いようです.
余談はさておき,シロアリの子供は過酷に働かされると言いうのは,少し誤解のある言い回しで,実際は働きながら成長して最後には翅のある雄と雌アリになり結婚飛行に参加します.つまりシロアリ社会は,全員が成長段階に応じて役割分担をするシステムを採用しているので,働きアリは生涯働きアリという差別的なアリ型の社会に比べて,結構民主的平等な社会と言えます.
今井弘民
参考文献:石川良輔(1996)昆虫の誕生 中公新書.
アリに似たハチ
体長1-20 mmほどの小形の寄生ハチで,種類によっては翅が無くアリのように見えることからアリガタバチの名前が付けられた。世界で6亜科83属約1900種が記載されています。アリガタバチの雌は,毒腺が発達していて,鱗翅目や鞘翅目昆虫の幼虫を刺して麻酔したのち産卵をする習性があります。このため果樹害虫や森林害虫の天敵として有用昆虫ですが,家屋内に発生する種では自己防衛のために人を刺す場合も多く衛生害虫でもあります。日本では,人を刺すアリガタバチとしてシバンムシアリガタバチとホソアリガタバチの2種が有名です。
シバンムシアリガタバチ
雌の体長は2 mm。体色は黄色から黄褐色で頭は長方形(図1)。雌は常に無翅で,雄は有翅と無翅の2形が知られています。畳や乾燥植物質に発生するシバンムシ類の幼虫と蛹に寄生する。小さい体の割には、毒針による皮膚の炎症は激しく、刺されてから1-2日ほどたつと1-3 mmほど腫れ,かゆみが数日続きます。夜間に刺される場合が多く報告されています。かゆみを止めるためには、抗ヒスタミン系の軟膏を塗るのが効果的です。世界に広く分布し、日本では北海道から九州までの家屋内で発見され、野外ではほとんど見られません。
ホソアリガタバチ
メスは体長4 mmほどで無翅の個体が多い。頭と胸は褐色から暗褐色で腹部は暗褐色から黒色。触角は黄褐色(図2)。雄は常に有翅で体長2 mmほど。
カミキリムシ、タマムシ、シバンムシ類などの甲虫類の幼虫に寄生します。家屋内の柱や梁、あるいは家屋周辺の木材に甲虫類の幼虫がいた場合、それを寄主として発生する場合があります.夜間に刺されるケースが多く、特に眼を刺された眼障害患者がこれまでに複数名知られています。また、学校内で大発生し、集団皮膚炎を引き起こしたケースもあります。雌親は卵から幼虫がかえった後も幼虫の脇にいて、子を守る行動が観察されています。
日本、韓国、台湾、中国に広く分布し、日本では北海道、本州、四国、九州、小笠原諸島、南西諸島に生息します.寺山守
さらに詳しい情報を知りたい方はここAntQA01をクリックして下さい。
本データベースに寄せられたメールの中に何件かアリガタバチの害がありましたので、ここに掲載しておきます。
Q5-1:突然のメールですが教えてください。築25年の鉄筋アパートの2階(4.5畳+6畳)に住んでいます。実は1カ月ほど前からアパートの部屋に蟻が出て困っています。蟻は小さく体長3 mm程度です。薄い赤色です。細身で、お尻がとんがっています。腹を立てると蜂のようにお尻を突きたててきます。いつも一匹ずつで、行列しません。夜寝ているとチクッとして布団の上を見ると蟻が1匹歩いています。ひどいと1晩で3匹くらいに刺されます。今まで捕まえた20匹のうち1匹には羽がついているように見えました。部屋の隅などを見ましたが、蟻の通り道はありませんでした。薬屋で売っているアリノスコロリを買ってきましたが、うちに出る蟻よりも、薬が大きいので効きませんでした。
何とか、退治できないでしょうか。
A5-1:手紙を拝見しました。
手紙にセロテープで貼り付けてあった標本を同定したところ,「アリガタバチ」でアリではありません!このハチは,寄生性で畳の中の虫などに寄生しているそうです。ですからアリノスコロリはまったくききません。スプレー式殺虫剤でそのつど殺すよりしかたがないかと思います。このハチは雌には羽がありませんが,雄には羽がついています。
Q5-2:体長2ミリ未満。尻の先に針があり、近くにいると臭いで存在が判る程臭く、刺されたり噛み付かれたりすると赤くなりとても痛がゆい。思わず潰すと体液が付いた場所がただれるヒメハリアリにも似ている気がするがちょっと違いとても困ってるので正体を知りたいです。 数匹捕まえたのを送っていいですか?その時まで生きているかは解りませんが見てほしいのです!
宜しくお願いします。
A5-2:標本受け取りました.
同定の結果,この虫はアリではなく,アリガタバチでした.多分ラワン材などを食害する甲虫に寄生しているハチと思われます.アリのように巣は造らず,寄生した甲虫の巣穴から一匹ずつ出てきます.アリ用の殺虫剤は効果がありませんが,一過性なので,出てきたらこまめに殺虫剤で殺して下さい.
Q5-3:我が家は築70年の古い木造建築ですが、最近我が家の台所の天井を褐色の小さい蟻がはっています。採ってみると異臭があります。からだはとても小さいのに臭いはきつい。貴サイトで調べてみましたが、見つけられません。異臭のある蟻として考えられるものがありましたらお教え下さい。
*写真掲載:写真に名前を載せる----素材提供:近藤 由紀
A5-3:送っていただいた虫の標本を同定しましたところ,アリガタバチの一種でした。この蜂は,木材を食べる甲虫の幼虫に寄生するそうです。強い臭いを出し,場合によっては人を刺しますが,一過性でしばらくすればいなくなります。
この蜂は幸い通常の噴霧式殺虫剤で退治することができます。
ユーザーからの返信:アリを同定していただきまして、ありがとうございます。アリではなくて、蜂なのですね!その名の通りアリとしか見えませんでした。
どうりで食べ物に寄りつかないわけです。駆除しやすいとのことで、ほっとしております。確かに刺すようで、チクッとした痛みで気づくとアリ(蜂)が体についており、その後しばらくその部分に痒みが残ります。一過性とのこと、確かにここ数日で数が減ってきたように思います。ただ寄生されている「木材を食べる甲虫の幼虫」は、家を食べているのでしょうか?今後はそちらの方を調べてみようと思います。
アリタケ(冬虫夏草)
冬虫夏草とは、動物(昆虫など)に寄生して、子実体(いわゆるキノコ、と言っても傘は作りません。棒状の物でいろんな形に変化します)を形成する菌類の1種です。中には動物以外(植物やツチダンゴ菌など)に寄生する種もあります。セミ、ハエ、カメムシ、トンボ、ハチ、アリなどの昆虫やクモ類、ダニ類などに寄生している物は比較的簡単に探すことができます。近くの山の谷川の付近やセミの良く発生する所を探してみてください。きっと、素晴らしい坪(冬虫夏草の発生地)を見つけることができるでしょう。いや発見出来たらうれしいなあ・・・。
ここではアリに寄生する物のみを取り上げます。
アリに生じる冬虫夏草はアシブトアリタケ(Cordyceps sp.)、アリタケ(C. japonensis)、アリヤドリタンポタケ(C. myrmecogena)、イトヒキミジンアリタケ(Cordyceps sp.)、クチキハスノミアリタケ(C. lloydii)、クビオレアリタケ(C. unilateralis var.clavata)、マルミアリタケ(Cordyceps formicarum)そのほか多種類が採集されています。それらの多くは、狭い坪(発生地)だけで見ることができるものであり、他の場所ではほとんど見ることはできないものです。しかし、イトヒキミジンアリタケは、調査の結果、四国の海岸地帯においてはあちこちで観察できることがわかりました。しかも、その着生形態と寄主の関係にはおもしろい関係があり、徳島県の南部、高知県、愛媛県南部ではチクシトゲアリに寄生し、着生場所は低木の葉の裏、シダの葉の裏であるのに対し、徳島県北部、香川県、愛媛県北部ではミカドオオアリに寄生し、着生場所は樹木の幹の下方であるということがわかりました(アリの同定は国立遺伝学研究所細胞遺伝学研究部門今井弘民先生、久保田政雄先生に、冬虫夏草の同定は清水大典先生にお願いした)。その結果、四国における、イトヒキミジンアリタケの発見は容易になりました。このイトヒキミジンアリタケは、朽ちず、年中観察できる種です。またマルミアリタケは落ち葉の中にいるミカドオオアリに寄生した冬虫夏草で、徳島県の眉山山麓の北面の全域で4月の中旬から6月の下旬まで確認することが出来ます。山麓から頂上に向かって、点々と広がる小さなマッシュルームの様な黄白色のマルミアリタケは自然の偉大さを思い知らせてくれます。
小さいアリに寄生する冬虫夏草ですので、探す場合はそこにしゃがみ込んで、時間をかけて、葉の一枚一枚、樹木の樹皮の割れ目の間まで詳しく見つめてください。木の中が朽ちて黒褐色になった部分にアリヤドリタンポタケを見つけることもあります。まずはじっくり、目を凝らして、観察を。
中国では,アリは医薬資源として利用されています(18薬用アリ参照)が,アリに寄生した冬虫夏草の効果については、現在の所不明なものの、何らかの効果が期待出来るのではないでしょうか。村上光太郎
関連サイト:久保田政雄(1988)アリの体から生えるキノコ「アリタケ」
アリの体
アリの先祖のハチの仲間は、ミツバチのように社会性を発達させた種類もいますが、多くは単独で生活しています。これに対してすべてのアリは雌アリを中心にして社会生活をしています。社会生活にともなって、仕事の分業が進み、卵を専門に産む女王アリ(雌アリ)と幼虫の世話や餌取り巣作りなどの雑用を引き受ける働きアリや外敵から巣を守る兵アリが分化しました(アリの家族参照)。ここでは学研の写真図鑑アリにある、クロオオアリの働きアリの体を中心に説明します。
アリは昆虫の仲間なので、体は頭と胸と腹に分かれています。頭には臭いをかぐための触角が2本、ヒトの手の役割をする大あご、物を見るための複眼2個と明暗を知る単眼が3個あります。また胸には3対6本の脚があります。雄アリと雌アリの胸には結婚飛行のための4枚の翅がついていますが、働きアリでは退化してありません。腹の先端には毒針のある種と退化してなくなった種がいます。毒針は、アリがハチから進化してきたことを示すなごりです。
触角:臭いを嗅ぐ器官でヒトの鼻に相当します。ハチの触角はすらっと伸びた鞭状になっていますが、アリの触角は柄節といって根元が長く伸びている部分とその先端にある棍棒状の部分からできています。棍棒状の部分には臭いのセンサーが無数に埋め込まれています。これらを前後左右自由に動かして臭いをかぎます。この機能によって、ヒトが立体的に物を見るように、どの方角にどんな形の臭いの塊があるか臭いを立体的に感じることができると言われています。
複眼と単眼:アリは5つ目で、頭の側面に2個の複眼と頭頂部に3個の単眼を持っています。複眼は物を見るための目ですが、ヒトと違って小さな目(個眼)が何100も集まってできています。分解能は余りよくないと言われています。一方単眼は、光の明るさや偏光を検出する目で、主に雄アリと雌アリが結婚飛行の時に相手を見つけるときに使います。このため、結婚飛行をしない働きアリでは必要がなくなって、退化した種類もあります。
大あご:頭の先端に着いている一対の牙状の器官で、ピンセットのように餌や幼虫を運んだり、シャベルのように巣穴を掘ったりするときに使います。ヒトの手にあたる器官で、アリにとって大変重要な働きをします。獲物を挟んだら絶対に放さないトゲトゲのついたキバアリの大あごや群れの移動を護衛するマンモスのようなキバを持ったサスライアリの兵アリの大あごなど、アリの種類によっていろいろな形をしています。
翅:アリは翅の無いハチと言われます。これはアリが地下生活をするようになって、結婚飛行の時以外は翅がいらなくなったためです。そのため働きアリでは翅が最初からありません。このため胸が退化して小さくなっています。また、雌アリは結婚飛行の後で、自分で翅をもぎ取ります。雄アリの翅はとれませんが、雄アリは結婚飛行の後ですぐに死んでしまいます。
脚:胸は前胸・中胸・後胸からできていますが、それぞれに1対ずつ脚があります。脚はすべて同じ形で、基節、転節、腿節(ヒトの太もも)、脛節(ヒトのすね)、付節(いわゆる足の部分)からできています。腿節と脛節との間から脛節刺とよばれる突起がでています。これは櫛のような構造になっていて、ヒトが髪の毛を梳くようにして体についたゴミやダニを取り除きます。
後胸腺:後胸の脚の付け根近くにある分泌腺で、ここから強力な殺菌作用のある物質が分泌されます。アリが地下生活を始めたとき、地面の中は湿っていてカビが生えやすいので、卵や幼虫をカビから守るために発明したアリ特有の分泌腺です。このおかげで、アリの巣にはカビが生えません。
腹柄:後胸腺以外にも、地下生活に適応してハチと大変違う点として、胸と腹の間に腹柄というソロバン玉のような節があります。腹柄が1個の種(ヤマアリ亜科)と2個(フタフシアリ亜科)の種がいますが、いずれも狭い巣穴の中で体を折り曲げて向きを変えるのに便利なように発達したアリ独特の形です。腹柄の部分で腹を曲げることは、また獲物に毒針を刺したり毒液を吹きつけるのにも役に立ちます。
毒針:毒針はアリがハチから進化してきたことを示すなごりで、餌になる虫や小動物をこの毒針で刺し殺します。今でもハリアリ亜科とフタフシアリ亜科のアリは毒針を持っています。餌を取る以外にも、敵から身を守るためにも毒針を使います。ヒトを刺すアリは危害を感じたアリが身を守るために刺すわけです。
アリの中には、ヤマアリ亜科のように、進化の途中で毒針が退化して毒腺になったアリもいます。毒腺には蟻酸という強力な毒液が入っていて、敵とたたかう時に吹きかけます。エゾアカヤマアリでは、この蟻酸が目に入ると失明することがあります。
アリの腹部には、毒腺以外にも餌を見つけたときにその場所を仲間に知らせる道しるべ物質(フェロモン)を出す分泌腺もあります。今井弘民
アリの寿命
種類によっても女王アリ・雄アリ・働きアリによっても違いますが、クロオオアリやクロヤマアリの女王アリでは、およそ10年から20年くらいと考えられています。これに比べて雄アリは非常に短命で、卵から孵って1ヵ月で成虫になり、結婚飛行を終えるとそのまま地面に落ちて他のアリやクモなどに食べられてしまいます。働きアリは、遺伝的にはメスですが、育つ過程で餌が十分に与えられなかったため、体が貧弱で女王アリのような翅や卵巣が発達していません。そのため寿命も短く1年かせいぜい2年くらいです。
働きアリが1-2年で死んでも、女王アリが新たに産んだ卵から次々に働きアリが補充されます(女王アリの産卵参照)。しかし、多くのアリでは女王アリが1匹しかいないので、女王アリが死ぬとその巣は終わりになります。これにたいして、エゾアカヤマアリやイエヒメアリのように1つの巣に沢山の女王アリが共同生活する種では、1匹の女王アリが死んでも他の女王アリが卵を産み続けるので、アリの巣は何10年もの間維持されます。今井弘民
アリの巣
アリの巣は,アリの種類によって違います.多くのアリは,地面に穴を開けてトンネル状の巣を作ります.しかし,ツムギアリやクロトゲアリでは幼虫の出す糸で木の葉を綴り合わせてボール状の巣を作ります.また枯れ木の枝の中をくりぬいて巣にするヒラズオオアリやヒメアリ,木の洞を利用するトゲアリ,あるいは朽ち木の中に巣を作るトビイロケアリなども知られています.その他,固定した巣は作らないで,落ち葉や朽ち木の下などを巣に利用するアミメアリなどもいます.変わったところでは,南米のグンタイアリは倒木の下などに何万匹もの働きアリが足と足をからませて女王アリと幼虫を幾重にも取り巻き,体がそのまま巣になってしまうそうです.
このようにさまざまな形のアリの巣がありますが,どれも共通して雨が降っても巣がぬれない工夫をしています.まず木の上ですが,もともと雨が降っても水に浸かることがないので安全な場所ですが,それでも雨がかかりにくい場所を選んで巣穴を空けます.ツムギアリでは,密に織られた絹糸が水をはじくので巣はぬれません.朽ち木を掘り抜いた巣では,朽ち木がスポンジ状になっているため水浸しになりません.また,落ち葉の下に作られた巣の場合は,状況に応じて雨のかからない場所に引っ越します.熱帯のジャングルでは,雨期には毎日豪雨(スコール)が降るため地面が水浸しになって巣を作れません.それで多くのアリが朽ち木や落ち葉の下、あるいは地上に落ちた枯れ枝に巣を作り,頻繁に引っ越しをします.引っ越しも賢い戦略です.
問題は開けた地面に固定した巣を作るクロオオアリ,クロヤマアリ,クロナガアリなどの場合です.一応少々の雨が降っても水たまりのできない小高い場所に巣穴を空けていますが,大雨が降ると巣口が水たまりに水没することがあります.そんなとき,巣のなかに水が入らないように2つの工夫をしています.1つは,巣穴のトンネルの壁を密に塗り固めて水を通さないようにします.もう1つは,雨が降り始めたら,巣の入り口を土で塞いで巣穴の空気が洩れないようにします.こうすれば,空気が逃げないかぎり巣穴には水が入ってきません.巣口を塞いでもしばらくは巣のなかにある空気で呼吸ができるので,一石二鳥というわけです.とは言っても防水は必ずしも完全ではないようです.そこで雨が上がって水が引いたら,急いで巣口を開け土を運びだして,傷んだ巣を補修します.雨上がりにアリがせっせと土を運びだすのには,実はこのような裏の事情があるのです.今井弘民
水底に棲むアリ
ウミトゲアリ
大水や高潮で冠水して巣が水浸しになるような低湿地帯に巣を作っているアリ(例えば、長良川の堤防に住むカワラケアリ)もいますが、多くのアリは水が嫌いです(9.アリの巣参照)。しかし最近、北部オーストラリアのダーウィンハーバーのマングローブ群落で、トゲアリの一種ウミトゲアリ(Polyrhachis sokolova Forel)が水底の泥土中に巣を作ることが報告されました(Nielsen, 1997)。
このアリの巣は,マングローブの絡みあった根の間の泥土中20-45 cmの深さにあって,1 m四方の範囲にいくつもの部屋が通路でつなげられた構造をしています。部屋や通路の壁は非常に滑らかな粘土でできていて,まるで軟らかいプリンに穴を開けたようになっています。
巣の出入り口は,マングローブの根の近くの泥の表面にいくつ開けられていますが,潮が満ちると土が崩れて巣口を塞いでしまいます。このため満潮の間は完全に水底に閉じこめられることになります。しかし,こうすることで巣から空気が逃げなくなるので,満潮の間も巣内に残された空気で呼吸することができる仕組みになっています。この状態で最長3.5時間ほどは持ちこたえるといわれています。
アリは普通水が苦手ですが,ウミトゲアリは水泳が大変得意のようです。潮が満ちてきて巣の周りが水浸しになると,まるでアメンボウのように素早く泳いで巣口が水没する前に巣に入るそうです。このアリの足には長い逆トゲが沢山生えていますが,これが泳ぐために役立っているかもしれません。水の中に住んではいますが,餌は干潮の時にマングローブの木に集まってくる昆虫が主食のようです.今井弘民
Nielsen, M. G. (1997) Nesting biology of the mangrove mud-nesting ant Polyrhachis sokolova Forel (Hymenoptera, Formicidae) in northern Australia. Insectes Soc 44, 15-21.
アリの冬ごもり
日本には,琉球列島沿いに北上してきた南方系のアリと,朝鮮半島や樺太経由でユーラシア大陸からきた北方系のアリが入り交じって生息しています。そのため冬ごもりの仕方も南方系のアリと北方系のアリでは大変ちがっています。
南方系のルリアリ・ヒメアリ・ヒラズオオアリなどは枯れ枝の芯に巣を作りますが,特別に冬ごもりの準備をしません。そのかわり冬でも気温が0度以下にならない本州中部以南の温暖な気候の場所に生息します。温暖な気候といっても,時に0度近くに気温がさがることがありますが,そんなとき南方系のアリは仮死状態でひたすら寒さに耐えます。
一方北方系のアリは,巣穴を地面の下に深く作ることにより,寒さをしのぐ工夫をしています。例えば,アメイロアリ・トビイロケアリ・トビイロシワアリなどは,地下30 cmほどの深さに巣穴をほります。また,クロオオアリやアズマオオズアリはさらに深く地中1-2 mまで,さらにクロヤマアリでは3 m位まで巣穴をほります。2 mの深さになると,冬でも15℃前後の温度が保たれるため,凍死することはありません。しかし,多くのアリは20℃以下になるとあまり活発に活動できなくなるので,冬の間は冬眠状態でじっと春を待ちます。これに対して,クロナガアリは,なんと4-5 mも深く巣をほります。そして,秋に収穫した雑草の種を食べながら冬を過ごします。今井弘民
イソップ寓話のアリ
12-1.アリとキリギリス
アリとキリギリスの話は、(意訳すると)、
暑い夏の日にせっせと働らくアリに、「アリさん、この暑いのにどうしてあくせく働くのですか?私と一緒に木陰で音楽しませんか」とキリギリスが声をかけます。しかし、アリは黙々と食物を運び続けます。やがて木枯らしの吹く冬になると、やつれはてたキリギリスがアリの家を訪れて、「寒くてお腹が空いて死にそうです、食べ物を恵んでください」と物乞いをします。するとアリが「夏私たちがせっせと働いたのは、冬に備えて食べ物を蓄えるためだったのですよ。あなたは夏に音楽を楽しんだのだから、冬はダンスでもしたらいかがですか」といって戸を閉めました。
この寓話は、「怠けているとキリギリスのように悲惨なことになるから、アリのように働いていざというときのために備蓄しなさい」と言いたかったのでしょう。しかしこの話、アリの専門家の目で見ると少し注文を付けたくなります。というのは、アリが夏の間せっせと働くようすは、仕事中毒にかかった現代資本主義を思わせるからです。つまり、女王アリが次々に卵を産むので、生まれた幼虫を育てるために働きアリは必死に餌をさがさなければならないのです。そして、餌があればあるだけ、女王アリはさらに卵を産み続けるのです。冬は冬で、多くのアリは地下にもぐって冬眠します。備蓄はそれぞれのアリが秋の最後に食べた餌だけです。後は体力勝負、冬の寒さにじっと耐えて生き残ったアリだけが、翌年の春に活動を始めます(アリの冬ごもり参照)。この点キリギリスはつかの間の生活を楽しんでいるわけで、もし冬にアリに物乞いしないで天命に従ったなら、それはそれで荘子流の無欲な生き方として立派だと思えますが、さて皆さんはどう思われますか。
話が横道にそれました。本題は、アリとキリギリスに出てくるアリの名前でした。ヒントは、「夏蓄えた食物を冬の間食べて過ごすアリ」と言うことになります。これに該当するアリとして、日本ではクロナガアリが知られています。クロナガアリは本州・四国・九州に分布し、開けた草地に地下4-5 mの深い巣を作り、春と秋に地上に出て雑草の種子を集める習性があります。集めた種子を巣のなかの貯蔵庫に蓄えておき、冬の間少しづつ種子の皮をむいて食べます。地下4-5 mも深くなると冬でも地温が15℃以上あって暖かく、しかも種子という保存の利く食べ物が豊富に蓄えられています。冬、母さんが囲炉裏端で栗の実を煮ている時,地中ではクロナガアリが草の実を食べている,こんなシーンが一昔前の日本には見られたわけです。このアリの仲間は、地中海地方にも生息する(ホンクロナガアリ)ので、この寓話はクロナガアリ属のアリの習性を念頭において書かれたものと思われます。
ところでギリシャ語原典のイソップ寓話集には471の話が収録されていますが、その中にアリの話が5つ出てきます(中務哲郎、2000)。それらのタイトルは、(112)アリとセンチコガネ、(166)アリ、(235)アリとハト、(306)ヘルメスとアリに咬まれた男、(373)セミとアリ、となっています。驚いたことに、広く知られている「アリとキリギリス」の話が出てきません!中務氏に伺ったところ、「原典は『セミとアリ』で、日本に伝えられる過程でセミがキリギリスにすり替えられた」とのことです。
イソップ寓話集は,何世紀にもわたって民衆の間で作られた寓話が,紀元前6世紀頃ギリシアに生きたとされるイソップの名の下に集められたもので,イソップその人が作ったと確証できる話は1つもないそうです。古典によくある話なのでこれはしかたないとして、その後イソップ寓話集はラテン語に翻訳され、中世になってラテン語から英語、フランス語、ドイツ語等に翻訳されたようです。その過程で、ヨーロッパの北部にあるこれらの国にはセミが生息していないため、翻訳の時にセミをキリギリスやコオロギあるいはバッタ(なんとロシヤではトンボ)に置き換えられたというのが歴史の真相のようです。
日本には16世紀の室町時代に宣教師によって伝えられた、「キリシタン版エソポ物語」(文禄2年,1593年訳)が最初で、その上巻の23番目に,「蝉と,蟻の事」として収められているそうです.その後江戸時代に流布した「古活字本伊曽保物語」(慶長・元和,1596-1642の頃)では下巻の1番目の話に,「蟻と蝉の事」として、また花間氏によれば天保15年(1884)に出版された「絵入教訓近道」も蝉になっているそうです.つまり,室町から江戸時代にはギリシャ語原典に忠実にセミと訳されていたわけです.その後明治時代になって、英語訳のイソップ寓話集が日本に入ってきたとき「アリとキリギリス」になり、以後これが定着したようです。
蛇足で私見を述べさせてもらうと、現在流布している幼児向け絵本「アリとキリギリス」には、内容からすると「アリとセンチコガネ」と「セミとアリ」の話を合体させて1つの話にしたように思えるものがあります。というのは、アリとセンチコガネでは、夏と冬の2場面があってセンチコガネをキリギリスに置き換えれば、冒頭に書いた「アリとキリギリス」の話とほとんど同じ内容です。一方、原典といわれる「セミとアリ」の方は、冬の場面だけで、お腹を空かしたセミが夏に蓄えた穀物を日に干しているアリのところに物乞いにやってくると、アリが「夏に笛を吹いていたのなら、冬には踊るがよい」と冷たくあしらう話です。まあいずれにしても、脇役のセミがセンチコガネでもキリギリスでも、これらの寓話に共通する主役のアリがクロナガアリであろうというのが、アリの専門家の一致した見解です。
12-2.アリ
イソップ寓話集166番に登場するアリの話は実に興味深い。と言うのは、冒頭「今のアリは昔人間であった」と始まるからです。昔の人間は大変働き者で農業に精を出すのはよいが、欲張りで隣の畠の穀物をくすねる癖があったようだ。それを知ったゼウスが怒って、人間をアリに変えてしまったのだという。しかしアリになっても、その心根を変えることはできなかった。だからアリは今でも働き者であるが、畠を歩きまわっては穀物を自分の巣に運ぶのだ。
この話に登場するアリは、アリとキリギリスと同じ「穀物を収穫するアリ」つまりクロナガアリ属のアリであることは間違いない。古代ギリシャにはよほどこのクロナガアリが目立った存在であったようです。
ところでこの話を読んだ読者は、「ゼウスが人間をアリに変えたときに、どうして心根も変えなかったのだろう?」と不思議に思われるのではないでしょうか。それに人間がアリになってしまったのなら、人間はもう存在しないはずなのに…。だいたいギリシャ神話に登場するゼウスは、全能の神と言われるわりには抜けたところがあります。この間抜けなゼウスを題材にした新イソップ寓話ができそうです。それはこんな筋書きです。「ゼウスは昔庶民であった。彼はしたたかな知恵を持っていたが煩悩が多く心根が貧しかった。彼は英知を磨き、ついに全能を得て神と称し、その名をゼウスと改めた。しかしゼウスは、その心根を変えることはしなかった。だからゼウスは今も、全能でありながら時に煩悩に走り心根が貧しいのだ」。
12-3.アリとハト
イソップ寓話集236番に登場するアリとハトの話は,平和の象徴のハトが、勤勉で信義に厚いアリに助けられる話です。あら筋は、最初ハトが川に落ちて溺れかけたアリに木の葉を落として助けてやります。アリがようやく岸に這い上がると、その親切なハトが猟師に狙われていました。そこでアリは猟師の足に咬みついてハトを助けてあげる、というお話です。この話に登場するアリは、「咬みつく」と飛び上がるほど痛くないといけない。
日本のアリの中では、まずオオズアリの小型働きアリが候補にあがります。このアリは肉食性で、ふだん虫の死骸などをかみ切って巣に運ぶ性質がありますが、大胆不敵にも草原に寝ころんでいる人間様を餌と間違えてかみつくことがあります。この他イエヒメアリやオオハリアリもチクリとするが、これはかむよりも針で刺す痛さで、寝ている赤ん坊が被害にあうことがあります。しかし、これらのアリは3 mm前後と小さく動きも鈍いので、野山を駆ける猟師を襲うとは思えません。この点エゾアカヤマアリ(4-7 mm)ならば猟師もたじろぐかもしれません。エゾアカヤマアリはカラマツの落ち葉などを数10センチほど積み上げた塚を作り、数万匹の大軍で暮らしています。かみつくと同時に蟻酸をかけるので大変痛く、蟻酸は目に入ると失明することもあるほど強烈です。もっともこのアリの仲間は、ヨーロッパではドイツ北部の森林に生息していて、イソップのギリシャ周辺にはいません。
一番ありそうな可能性として、クロオオアリの仲間があげられます。日本のクロオオアリは体長7-12 mmで一番大きなアリですが、普段あまり人にかみつくことはないようです。地中海地方にもオオアリの仲間がたくさん知られていますが、中には大形の働きアリの大あごが鋭く尖って、かまれると痛い種類もいます。イソップもかみつかれたことがあったかもしれません。
目を世界に転じれば、咬まれると強烈に痛いオオアリの仲間(ギガスオオアリ)がマレーシアの熱帯雨林にいます。普段朽木の中に巣を作って夜行性なのであまり目立ちませんが、なにしろ体長が25 mmもあって大あごが鋭く、咬みつかれると指に穴が開きスパッと切り裂かれることもあります。でも痛さの点ではツムギアリの方が上かもしれない。このアリは10 mmほどの大きさで、幼虫の出す糸で木の葉を綴り合わせてラグビーボールのような巣を作ることで有名ですが、大変敏捷で戦闘的です。うっかり巣に触ると何百もの働きアリが出てきて鋭いあごでところかまわず咬みつきます。一度咬みつくと死んでも離さない!これなら猟師も悲鳴をあげること間違いないでしょう。もしイソップがマレーシアに生まれていたら、きっとツムギアリをモデルにこの寓話を書いたことでしょう。
12-4.ヘルメスとアリに咬まれた男
ヘルメスはギリシャ神話に出てくる神ですが、あるとき船が乗客ごと沈むのを見た男が、「1人の罪人を懲らしめるために罪のない乗客を巻き添えにするのはいかがなものか」、と神の悪口を言いました。たまたま男は小麦袋を担いでいたのですが、1匹のアリがそれを見つけて小麦を取ろうと男に咬みつきました。男は怒って周りのアリもろとも踏みつぶしました。するとヘルメスが「これでも、お前がアリにしたのと同じ仕方で神が人間を裁くのが我慢ならないか」、と言って男をむち打ったという話です。
どっちもどっち、下賎な男と張り合うなどギリシャの神も大人げない。まあそれはそれとして、この寓話に登場するアリもまた、小麦を餌とすることから、クロナガアリの仲間をイメージしていることは間違いありません。しかし、「咬みつく」という表現は、「アリとハト」のところで述べたように、クロナガアリの習性としてはふさわしくありませんん。というのは、このアリのあごがギザギザのついた幅広なのをご覧になれば、穀物を運ぶのには適していますが、咬みつくほど鋭くはないことがお分かりいただけると思います。
12-5.ハエとアリ
この話は、ギリシャ原典のイソップ寓話には登場しませんが、ラテン語訳の中に収録されています。日本では、古く江戸初期に刊行された「伊曾保物語」の第28話に登場します(武藤禎夫、2000)。その概要は、
あるときハエがアリに自慢をします。「世の中に私ほど恵まれた者はいないでしょう。なにしろ、王様の料理もただで味見できるし、高貴な人たちの頭上をわが物顔に飛びまわれるのですよ。あなたにはこんなことできないでしょう」。するとアリが切り返します。「あなたは自慢げに話されますが、身勝手なだけでしょう、世間では嫌われ者ですよ。それに秋になれば、弱って飛べなくなり見苦しいかぎりです。その点私は至らないものですが、夏一生懸命働いて冬に備えていますから、いつも豊かな暮らしができるのです」。
ここに登場するハエは、どこか「アリとキリギリス」のキリギリスに似ていますが、ハエのほうが人を食い物にしている点で一段と堕落しているようです。一方アリは、ここでも夏に働いて冬の備えをすることになっていますから、穀物を収穫するクロナガアリがモチーフになっていることは明らかです。
以上イソップの寓話に登場するアリについて考察を試みましたが、6話のうち5話までが、穀物を収穫するアリが出てくるのは興味深いことです。多分イソップの時代のギリシャでは、穀物を集めるクロナガアリ属のアリ(例えばホンクロナガアリ)が非常にポピュラーに生息していて、人々がその特異な習性を驚きの目をもって観察し、勤勉なアリのイメージが定着したものと思われます。そのため、「咬む」という別のアリの持つ習性も、クロナガアリ=アリという図式の下に寓話の世界に取り込まれたものと思われます。今井弘民
関連サイト:久保田政雄(1988)「イソップ物語」のアリが集めていたもの クロナガアリが私のアリ研究40年の始め 考古学者がアリに騙されたこともある参考文献:
中務哲郎 「イソップ寓話集」 岩波文庫 (1999) 花間崇 「World of Aesop」(ホームページ) http://www.geocities.co.jp/Bookend/9563/indexj.html 武藤禎夫(校注)「万治絵入本 伊曾保物語」 岩波文庫 (2000)
アリの目
アリには2種類の目があります.1つは複眼といって,沢山の小さな目が集まってできた昆虫に特徴的な目です.もう1つは額または頭のてっぺんにある3つの目(単眼)です.複眼は物を見分けるために,また単眼は明るさを識別する機能があると言われています.ですからアリは合計5つの目を持っていますが,アリは先祖にあたるハチに比べると,目はあまり発達していません.中には目がまったくなくなってしまったアリもたくさんいます(例えば,メクラハリアリや軍隊アリ).目が見えなければ不便なように思いますが,アリは目の代わりに臭いで物を識別する能力を発達させたのです.
約1億年前にアリがハチから分かれたとき,アリの祖先は地中に巣を作ることを考えました.これは,大変賢いアイデアでした.というのは,当時全盛を極めていたハチは,地上のあらゆる場所を占拠していたので,アリの先祖が地上でハチと互角に勢力をのばすことは難しかったのです.しかし幸いなことに,ハチは地中にはあまり巣を作りませんでした.そこに大きな生活空間(ニッチェ)が手つかずで残されていたのです.
地中の暗い環境で生活するには,目はまったく役に立ちません.そこで,目の代わりに臭いを感じる器官としての触角を発達させて,臭いを頼りに生活するようになりました(アリの言葉参照).そのためアリにとって目はあまり使われることが無くなり,特に働きアリでは退化する傾向にあります.ただし雌アリと雄アリは空中で結婚飛行するため,目は比較的よく発達しています.
このような事情で,普通のアリは数センチからせいぜい数10センチ位先までしか見えないようです.もっとも,中にはオーストラリア特産のトビキバアリ(Myrmecia pilosula)のように2〜3 m先まで見える種類もあります.このアリは人が近づくとこちらを伺い,いそいで草の茎に登り忍者のように身を隠して人が通りすぎるのをじっと待ちます.また同じ仲間のサバクキバアリ(Myrmecia desatorum)は目が見えるうえに攻撃的で,巣を壊されると10数メートルも追いかけてきて鋭い針で刺そうとします.(このアリに刺されると目の玉が飛び出るほど痛いです).今井弘民
関連サイト:久保田政雄(1988)アリの目は大きくてもひどい“近眼” 雄の目が大きいのは交尾のつごうから
アリの毒針
咬むアリ,刺すアリ,咬んで刺すアリと色々なアリがいます.咬むアリは鋭い「あご」を持っていますが,刺すアリは毒針を持っています.あごは人間の手に相当する器官で,餌を咬みきったり,巣に運んだり,巣穴を掘ったりするとき使います.中にはアゴの先が鋭く尖っていて,咬まれると大変痛いアリ(ツムギアリやギガスオオアリ)もいますが,多くのアリは咬んでもあまり痛くはありません.これに対して刺すアリは,アリがハチから進化してきたこともあって,今でもハリアリ亜科とフタフシアリ亜科のアリは毒針を持っています.毒針は虫などの獲物を殺すための武器で,ハエやガなどは小さな虫では刺されると数秒で死んでしまうくらい強力です.ただし,針を持っていても必ずしも人を刺すわけではありません.アリが身の危険(例えば知らずに触ったり巣を壊したり)を感じた時に防衛のために人を刺すわけです.日本で人を刺すアリの代表は,イエヒメアリとオオハリアリです.
イエヒメアリは2 mmほどの小さなアリですが,人家の壁の隙間に巣を作り,床にこぼれた食物を求めて部屋を歩き回ります.大発生した場合など,人を刺すことがあります.イエヒメアリは,自然状態では小さな虫などを針で刺し殺して食べる習性があるため,何かの拍子に人肌に触れるとびっくりして刺すわけです.針自身は小さいのですが,モノモリンという毒物質が注射されるため痛がゆく感じます.一方オオハリアリは3.5 mmほどのこげ茶色のアリですが,ハリアリ亜科の仲間で立派な毒針を持っています.普通屋外の落ち葉や朽ち木の下に巣を作っているので,屋内には餌探しの働きアリがたまたま迷い込むか,羽アリの季節に結婚飛行に飛び出した雌アリが灯に誘引されて室内に入り,人を刺すことがあります.いずれの場合も,虫刺されの軟膏かキンカンを塗ってそっとしておくと2週間位で治ります.痛みはすぐに無くなりますが,かゆみがなかなかとれないため,傷口をかきむしるとアレルギー反応で潰瘍状になって治りにくくなります.
刺すアリは日本にはそれほど沢山はいませんが,外国には刺されるとスズメバチのように強烈に痛いアリが沢山知られています.例えば,オーストラリア産の原始的なキバアリ(Myrmecia)は1-2 cmの大形のアリですが,これに刺されると親指が足の親指のように膨れ上がり,傷口が潰瘍になっていつまでも痛がゆく,治るのに数ヶ月かかります.特に小型のトビキバアリ(M. pilosula)は,アレルギー体質の人はショック死をすることがあるそうで,セアカゴケグモと並んでオーストラリアの毒虫の筆頭にあげられています.ただし,刺されたらすぐにキンカンを塗ると毒が中和されるらしく,痛みやかゆみがなく腫れることもありません.今井弘民
関連サイト:久保田政雄(1988)アリも虫のいどころが悪いと刺す? 刺されると命の保証ができないアリ
女王アリの産卵
アリの産卵は,原則として女王アリが行います.女王アリは,結婚飛行の時の交尾によって以後必要な分の精子を受精のうに貯え,二度と交尾をしません.働きアリ(性別の上では雌)は,普段は女王アリに抑制されて卵を産みませんが,女王アリが死んだ時やその抑制から隔離されたときには,少量の卵を産むことがあります.それらの卵は,単為生殖的に発生して,雄アリに成長します.
春から初夏にかけての産卵期の女王アリの卵巣には,数1000個の成熟した卵がつまっていて,腹部が異常に大きくふくらむことがあります.女王アリの産卵は,普通10個から20個ぐらいずつ断続的に産みだされます.産みだされた卵は,すぐに働きアリによって運ばれて,育児室にまとめて保管されます.卵の表面は弱い粘着性があるため,卵同士がくっついて塊になります.これは,いざという時に働きアリが卵を運ぶのに便利です.
アリの卵は,普通乳白色で短めのウインナーソーセージの形をしています.クロヤマアリの卵では,長径が0.8 mmほどです.種類によってはピンポン玉のように球形のもの(キバアリ)もあります.色も茶色味を帯びた種類もあります.
女王アリが生涯どれくらいの数の卵を産むか,ちゃんと研究した人はいません.しかし,成熟した巣の働きアリの数は,数の多い種では,ハキリアリで200万匹,グンタイアリで50万匹ぐらいです.また,数の少ない種では,ハリアリの仲間などでは10匹ぐらいというものも知られています.そこで,女王アリの一生の間に産む卵の総数は,女王アリの寿命と働きアリの寿命および成熟した巣の働きアリの数から次の式でおおよそ計算できます.
女王アリの総産卵数=成熟巣の働きアリ総数X(女王アリの寿命 / 働きアリの寿命)
日本で一番目につくクロヤマアリでは,成熟した巣の働きアリの総数は,5000匹前後です.また,女王アリの寿命は,10-20年,働きアリの寿命は1-2年と考えられます.ですから,それぞれの平均値を女王アリ15年,働きアリ1.5年とすると
クロヤマアリ女王の総産卵数=5000X(15 / 1.5)=50000(個)
となります.
しかし,卵はいつも全部成虫アリにまで育つとは限りません.成育の途中で菌類に冒されたり,寄生虫に食べられるもの,食物の不足したとき先に生まれた幼虫や働きアリに食べられてしまうものもあります.また,毎年新しく羽アリ(雌アリや雄アリ)の卵も産まなければなりませんので,これらの損失を考えるとクロヤマアリの女王アリは一生のうちに10万個ぐらいの卵を産むのではないでしょうか.久保田政雄
アリの性決定
アメーバや植物では細胞分裂や挿し木によって無性的に増えることもありますが、多くの生物では雌と雄の2つの性をもっていて、雌の作る卵が雄の作る精子と受精して子どもが生まれます。このような雌雄による生殖は有性生殖とよばれ、有害な遺伝子を取り除いて有用な遺伝子を蓄積する優れた生殖方法と考えられています。
有性生殖の標準的な性決定は、例えばヒトでは、性を決定する遺伝子をもったXとY染色体(性染色体)が分化していて、XXの組み合わせで女性にXYの組み合わせで男性になります。女性と男性は、いわゆる女らしさと男らしさ(2次性徴)を別にすれば、基本体形はそれほど違いません。
アリも、基本的には、雌アリと雄アリによる有性生殖を行います。しかし、アリの性は受精するかしないかで決まっていて、受精すると雌に受精しないと雄になります。女王アリは結婚飛行の時雄アリから受け取った精子を受精嚢に蓄えておいて、雌アリを産みたいときは受精嚢の口をゆるめて精子を出して卵を受精させ、雄アリを産みたいときには受精嚢の口を閉めて精子がでないようにします。このように、アリでは、雄雌の決定が女王アリの受精嚢の筋肉のゆるめ具合で決められています。
もう一つアリ独特の性質として、形や機能の違う複数の雌がいます。つまり多くのアリで産卵機能を持った女王アリの他に、遺伝的には雌ですが産卵機能を失って体形が著しく特殊化した働きアリや兵アリが分化しています。このように雌が機能の違ういくつかの個体に分化することは、多形現象またはカースト分化と呼ばれてアリやハチの仲間で発達しています。雌アリのカースト分化は成長過程で与えられる栄養によって決められていて、栄養がよいと雌アリ(女王アリ)に、栄養が悪いと働きアリか兵アリになります。
性決定の遺伝的仕組み:アリでは複数の性決定遺伝子(例えばaとb)が1対の(相同)染色体上にあると考えられています(a/b)。ただしその染色体は、人のXとY染色体のように形が分化していないので、区別できません。それはともかく、アリではそれらの遺伝子の組み合わせで性が決定されます。
まず基本になる雌性の決定ですが、女王アリの体の細胞は、雄親と雌親から伝えられた染色体が1組づつ(2n)あって、その中の1組には性を決める2個の遺伝子(a/b)があります。一方女王アリの卵巣で卵が作られるときには、減数分裂によって染色体数が半分(半数、2n→n)になるため、性決定遺伝子もaとbにわかれます。この結果、染色体数が半数(n)でaかb遺伝子を持つ2種類の卵が形成されます。アリでは、これらの卵が受精しないでそのまま単為生殖的に発生すると雄アリになります。ですから雄アリには、染色体数が半数nでaかb遺伝子を持った2種類がいます。さらに、雄アリの精巣では減数分裂は省略されてそのまま精子ができます(n→n)ので、精子の染色体は半数(n)でaかb遺伝子を持った2種類できます。これらの精子が前述の卵と受精すると、染色体数2nでa/bの遺伝子の組み合わせを持った受精卵だけが遺伝的に正常な雌に発生します。模式的に示すと次のようになります。
雌アリの卵形成
雌アリ(2n、a/b)-(減数分裂)→卵1 (n、a)、卵2 (n、b)雄アリの発生
卵1 (n、a)-(単為生殖的発生)→雄アリ1 (n、a)卵2 (n、b) -(単為生殖的発生)→雄アリ2 (n、b)
雄アリの精子形成
雄アリ1 (n、a)-(減数分裂なし)→精子1 (n、a)雄アリ2 (n、b)-(減数分裂なし)→精子2 (n、b)
雌アリ・働きアリ・兵アリの分化(カースト分化)
卵1 (n、a)+精子2 (n、b)-(富栄養成長)→雌アリ(女王アリ)(2n、a/b)-(貧栄養成長)→働きアリ、兵アリ(2n、a/b)
卵2 (n、b)+精子1 (n、a)-(富栄養成長)→雌アリ(女王アリ)(2n、a/b)
-(貧栄養成長)→働きアリ、兵アリ(2n、a/b)
アリの性決定はなかなか複雑ですが、この図式が正しいとすると、卵1 (n、a)+精子1 (n、a)あるいは卵2 (n、b)+精子2 (n、b)という遺伝子の組み合わせの受精卵が考えられます。それらは、染色体は2nですが形態的には雄になります。このような雄アリは2倍体雄アリと呼ばれて、実際に観察されています。
二倍体雄アリの発生
卵1 (n、a)+精子1 (n、a)-(発生)→二倍体雄アリ1 (2n、a/a)卵2 (n、b)+精子2 (n、b)-(発生)→二倍体雄アリ2 (2n、b/b)
つまり、アリの性決定は、性決定遺伝子の組み合わせが異なる(ヘテロ)とき雌になり、同じ組み合わせ(ホモ)のときは雄になる仕組みになっています。
このような2倍体雄アリは、たいてい不妊で一代限りで消えてしまいますが、中にはカワラケアリのように妊性のある場合も知られています(Yamauchi et al., 2001)。2倍体雄アリからは2倍体の精子ができますので、これで受精した卵からは、3倍体の雌アリまたは働きアリや兵アリが生まれてきます。実際そのような個体が自然界でも観察されています。このようになるとアリの性決定は非常にややこしくなって、混乱してきます。そこで、そのような混乱を避けるために、性決定に関係する遺伝子の数を増やして(例えばa,b,c,d・・・)ホモの組み合わせが生じにくい工夫がなされています。このような遺伝子は複対立遺伝子と呼ばれますが、Solenopsis invicta(アカミカミアリ)では10-13個あると推定されています(Crozier & Pamilo, 1996)。また、同じ巣の中で育った雄と雌アリが結婚飛行で交尾すると遺伝子が同じ組み合わせになりやすいので、それを避けるために、結婚飛行の時間を合わせて近隣の別の巣からも一斉に飛び立って交尾することも行われています。
雄アリと雌アリの産み分け
雄アリは、結婚飛行で雌アリと交尾する以外、アリの社会にとって何の役にも立ちません。
雌雄モザイク:チョウやカブトムシでは、体の左右が雌と雄になっている奇形個体が稀に発見されて、数100万円から1000万円を越す高値で取引されるようです。このような個体は、雌雄モザイク個体とよばれ、アリでも発見されています。(ただし、アリでは一銭の価値もありませんが!)。ここでは、ヒメアリで発見された例を紹介します。正中線を境に左右で雄と雌に分かれているほかに、体の1/4とか頭部側面のみとかあるいはパッチ状にまだらに雌雄形質が混ざっていることもあります。
このような不思議な現象の遺伝学的な仕組みは、アリの場合は染色体が半数nになると雄に発生することが関係しているようです。つまり、受精して雌として発生を始めた個体(2n)の一部の組織から、何らかの原因で、1組の染色体が消失して半数性細胞(n)になり、その部分が雄の形質を発現することが考えられます。染色体消失が2細胞期の片方の細胞で生じると正中線を境に雌雄になり、4細胞期で生じると1/4モザイクなど、発生の後の方で生じるほど雄形質の発現が局在的になります。また、理論的には、受精の時に異なる性決定遺伝子を持った2つの精子によって受精してもモザイクになります。この場合は、染色体はいずれも2nで2n雌/2n雄のモザイクになるはずです。学問的にも大変興味ある現象的ですが、まだ詳しい解析はなされていないようです。
今井弘民
関連サイト:久保田政雄(ありとあらゆるアリの話1988)アリをセックス・チェックすると
アリの餌
確かに多くのアリは甘いものが好きです。しかし,肉や虫を好むアリや雑草の種子を食べるアリ、さらに甘いものも肉も何でも食べるアリもたくさん知られています。
アリはスズメバチのようなハチの仲間から進化してきたと考えられています。スズメバチの成虫は蜜をなめますが、幼虫は虫だけを食べます。この性質がアリにも受けつがれていて、原始的なキバアリの仲間では今でも、働きアリは蜜を大変好みますが、幼虫はハエやクモなどの虫しか食べません。
アリの食性はこのようなハチの食性から出発して、まず昆虫や小動物を食べる肉食性を発達させたようです。この肉食性は今も、多くの原始的なハリアリの仲間に見られます。進化したアリの中にも肉食性を守っているアリがいます。例えば軍隊アリは、何キロも行列行進することで有名ですが、行列を横切る昆虫や小動物は何でも片っ端から食べてしまいます。しかし、中にはダルマアリのようにクモの卵しか食べないアリとか、ウロコアリのようにトビムシしか食べないアリなど、特別な餌しか食べないアリもいます。
これに対して進化したアリの多くは、肉食だけでなく植物の出す蜜も利用する雑食性の方向に進化しました。クロオオアリやクロヤマアリをはじめ、現在家の周りに見られるほとんどのアリは、雑食性です。雑食性の最大の利点は、「食べられるものは何でも食べる」という点にあります。雑食性は、厳しい生存競争に勝ち残り子孫を増やための優れた戦略といえます。
雑食性のうち比重を蜜に置き換えたアリが進化しました。例えば、ケアリの仲間はアリマキやカイガラムシの世話をして、それらが出す甘い汁を好んでなめます。これは、丁度牧場に乳牛を飼育してその乳を飲むのと同じなので、牧畜アリと呼ばれています。この延長線に、キノコを栽培するハキリアリがいます。ハキリアリは中南米の熱帯に棲息しますが、木の葉を鋭いアゴで切り取り巣に持ち帰って、それを苗床にしてキノコを栽培して食べることで有名です。さらにクロナガアリのように、植物の種子を専門に食べるアリも進化してきました。
このようにアリ類全体が食べる食物の種類は、人間に次いで豊富です。アリが甲虫やチョウやハエと並んで4大昆虫の一つとして栄えている理由の一つが、このような強い雑食性の獲得にあるのです。今井弘民
食用アリ
日本ではアリが食卓に上ることはありませんが、海外(特にアリの多い熱帯)では色々な国でアリを食べる習慣があります。
食材としては、幼虫やサナギも含めて沢山のアリを採集する必要があるため、コロニーの個体数の多い種類が対象になります。中国南部や東南アジアでは、ツムギアリが食用に供されます。ツムギアリは、木の葉を幼虫の出す糸でつづりあわせてラグビーボールのような巣を木の枝に作ります。1つの巣に数1000匹のアリがいて、雌アリは体が大きく香ばしいので、羽アリのシーズンになると盛んに採集され、油で炒めたりフライにして食べます。
ミツツボアリは、オーストラリアのアボリジーンが食用にすることで有名です。このアリは、採集してきた蜜を若い働きアリに食べさせ、腹部(そのう)に溜める性質があります。この選ばれたアリは、腹部が蜜で膨らんで1 cmほどの透明なブドウのようになります。その形がミツ壺に似ているためミツツボアリの名前が付けられました。このアリは地中深く巣を作りますが、アボリジーンには格別のご馳走のようで、根気よく巣を掘って食べます。
日本では、昭和20-30年代に、長野県でエゾアカヤマアリが食用のために採集されていました。採集方法は一風変わっていて、まずエゾアカヤマアリの巣を見つけるとホーキグサで作った箒で塚をたたきます。するとアリが怒って一斉に巣から出てきて箒に噛みつきます。そこをすかさずビニールの袋に払い落として集めるのです。集めたアリは、油で炒めて味付けして缶詰めにされ、オードブルようにアメリカに輸出されました。久保田政雄
薬用アリ
アリの薬用としての利用は、他の生薬類(薬として使う動植鉱物)が後漢の時代(25〜220年)に神農本草経(炎帝神農氏著)に記載され、すでにその利用法や薬効が確立していたのに比べると、遅くから使われ始めた生薬です。しかし、とは言っても、すでに、932年に書かれた倭名類聚抄(源順著)に記載されていることからも、その効果は日本では早くから知られ、その後、1578年に中国で書かれた本草綱目(李時珍著)にも記載されています。薬用としての利用は日中にとどまらず、ヨーロッパでも使用されており、そのことが1921年に書かれた西洋民間薬(富士川游著)に記載されています。アリの効用としては、麻痺、神経痛、痛風、リウマチ、ルイレキ、癰疔などが記載されています。近年では四川中薬志に起源や成分について詳しく記載されています。また、中国やブラジルなどでは薬用資源として商品化もされ、免疫機能の改善や滋養強壮剤として利用されています。
村上光太郎氏
注:村上光太郎氏から伺った話しでは、「最近日本でも、アリを粉末にして固めた錠剤が健康食品として出回っていて、効能書きには、神経痛・痛風・リウマチなどに効くと書かれていますが、これらの中には、アリの成分としては薬用効果があっても、原料輸入や製剤の過程で薬効が失効したり、添加物によって本来の薬効とはかけ離れたり、あるいはまがい物も出回ったりしているので、医学的な見地からは必ずしも薬効は保証できない」とのことです。使用に際しては、十分注意する必要があると思われます。今井弘民
古くから人類は、アリを病気や怪我の治療に使っていた記録がありますが、アリを薬用に利用することでは、漢方の伝統がある中国が最も盛んです。中国の本を見ると、様々な病気に対するアリの処方が書かれていて、現在でも各種製品が作られ、また病院で患者に投与されています。
原料となるアリは、採取しやすいエゾアカヤマアリ、クロトゲアリ、トゲアリ(いずれも日本にも分布しています)などが多く、粉末にしたものやアルコールで抽出したものを、朝鮮人参などの薬草や冬虫夏草菌などと配合して、錠剤・ドリンク剤・カプセル入り粉末の形で製品化され、現在日本国内でも数種類の製品が市販されています。体の活力増強や神経痛あるいはリュウマチなどに効くとされていますが、これら薬理効果は(多くの漢方薬と同じように)経験的に認識されたもので、現代医学の手法で解明されたものではないようです。久保田政雄
アリの害
20-1.刺すアリ
アリはスズメバチの仲間から進化してきたと考えられています(アリの進化参照)。その証拠に今でも一部のアリ(ハリアリ亜科とフタフシアリ亜科)は、腹部の末端に毒針を持っています。これらの亜科のアリでも大部分の種類は人を刺したりしませんが、世界には刺されると息がつまってクラクラッと目まいがするほど痛いアリがいます。中南米産のパラポネラ、東南アジア産のテトラポネラ、オーストラリア産キバアリなどは、その筆頭です。特にトビキバアリは、アレルギー体質の人はショック死することもあるほど強烈です。幸いなことに、日本にはそれほど危険なアリはいません。日本で刺すアリとして話題になる種類は、せいぜいオオハリアリにシワクシケアリとアカカミアリぐらいです。
オオハリアリ
体長が4ミリほどの黒いアリで、北海道以外のほぼ全国にいるありふれた種類です。林縁の朽木の内部とか住宅地周辺の地中や石の下に巣をつくっていますが、巣をいじったりしない限り、まず刺されることはありません。もし刺されると、ピリピリッとした痛みが電気のように走りますが、ハチほどには刺されたところが赤く腫れたりしないし、痛みも10分程度で長くは続きません。被害としては、農家の納屋に発生して農作業中に刺されたという報告があります。また、神奈川県内の高校で、ベランダの隅に積もった土ぼこりの下に本種が巣を作ったため、被害が続出したことがあります。最近の生徒は、休み時間にベランダに出て床に座って談笑することが多いので、刺されやすくなったものと思われます。また、結婚飛行の後に家屋内に飛来した雌アリに刺された例もあります。変わった例としては、昭和46年ごろ秋田県の花岡鉱山の地下800 m付近の坑道に大発生して、坑内の作業員が多数被害を受けた例が知られています。坑木につかわれた用材に巣くっていたのが坑内に持ち込まれ、それが繁殖したものと思われます。
被害実例:AntQAH01.html
シワクシケアリ
クシケアリは、体長が5 mmぐらいの黒褐色のアリで、九州以北の山地に分布しているが、北海道では平地にも棲んでいます。巣は石や倒木の下、朽木の中などに作られ、野外で土木作業をする人がたまに被害を受けることがあります。刺されるとかなりズキズキしてオオハリアリより痛いが、いつまでも痛むことはありません。
アカカミアリ
世界の熱帯・亜熱帯地方のどこでもよく見かける体長2.5-6 mmの黄褐色の小さなアリですが、集団で咬みついて刺すので大人でも思わず声を上げるほど痛く、刺された痕がみみず腫れになって治るのに1-2週間かかります。欧米ではこのアリは「ファイヤー・アンツ」(火アリ)と呼ばれ恐れられています。アカカミアリの原産地は、アメリカ合衆国南部から中米にかけてですが、交通の発達によって全世界の熱帯地方に分布しました。日本では、ベトナム戦争当時、このアリが沖縄に侵入して一時的に繁殖したため、一部の農家の人が被害を受けたことがありました。アメリカ軍の物資にくっついて来たと思われます。極く最近になって、硫黄島に侵入して大繁殖し、駐留する自衛隊員に大きな被害が出ています。もし本土に上陸すると深刻な被害が予想されますが、幸いこのアリは熱帯性のため0℃以下では棲息できないので、現在の日本の冬の寒さには耐えられないようです。しかし、このまま地球温暖化が進むと将来このアリが本土上陸する可能性は否定できません。
被害実例:AntQAH02.html
アリガタバチ
アリガタバチはハチの一種でアリではありません。形がアリに似ているのでよくアリに間違えられます。これに刺されるとかなり痛みを感じます。日本ではシバンムシアリガタバチとホソアリガタバチの2種類が家屋害虫として話題になります(アリに似た虫参照)。
アリに刺されたら
日本のアリは、刺されても命に別状はありません。刺されたときは、慌てず、虫刺されの軟膏やキンカンなどをつけるだけで、ほっておいても1-2週間たてば自然に治ります。ただし、刺された場所をかきむしると化膿して治りにくくなりますので注意して下さい。
余談ですが、オーストラリア産のキバハリアリに刺されたときにキンカンをつけると劇的に効きます。何もしないと、刺された部位が赤く腫れ上がり(親指が足の親指ほどになる)数ヵ月も痒みが消えません。掻くと痛がゆくさらに患部が腫れて、最後には皮膚がボロボロむけてしまいます。しかし、キンカンを塗ると毒が中和されるようで、痛みも腫れもまったくありません。
久保田政雄、今井弘民
20-2.家の中に侵入するアリ
郊外の一戸建ての家では、庭に棲んでいるアリが屋内に入ってくることがあります。クロヤマアリ、トビイロケアリ、アシナガアリなどの場合が多いですが、たいていの場合は働きアリが餌探しのために1匹で床の上を這い回る程度です。これらのアリは刺したり病原菌を移したりして人に危害を加えることはありませんので、神経質になる必要はありません。むしろまだ身の回りに自然が残っている証拠としてそっと見守ってあげて下さい。しかし、そんな悠長なことを言っていられない家屋害虫としてのアリもいます。その筆頭はイエヒメアリとヒメアリです。イエヒメアリ
体長2-2.5 mmの黄色から赤褐色の小さなアリです。世界で最も有名な家屋害虫の1つで、エジプト原産の熱帯性のアリと考えられていますが、古代から人や貨物の移動に伴って生息域を拡大し今では全世界に広がっています。もともと熱帯原産なので、温帯や冷帯のような冬期に氷点下になる寒冷な地方では越冬ができませんでした。このため日本の自然状態での棲息地は、関西から九州にかけてでした。しかし、最近大都会の建物は大型化し暖房が完備したため、関東地方でも高層ビルやマンションに棲みつくようになって、大きな被害を引き起こしています。
このアリは、1つの巣のなかに多数の女王アリがいて常時卵を産み、屋内にこれと対抗するアリがいないため、短期間に爆発的に繁殖して数万匹にも達します。例えば、数階建てのマンションなどに侵入した場合、2-3年で全室に広がるという凄まじさです。床と壁の縁のような、ややうす暗い所を行列して台所や食堂あるいは茶の間などに入り、肉・魚肉・チーズ・バター・パン・砂糖・菓子などを片っ端から食害し、衣類などに穴を開けることもあります。アリの行列に殺虫剤を噴霧して殺しても、1つの巣に何万匹も働きアリがいるので、次々に新手が繰りだしてきてなかなか絶滅できません。また、壁の亀裂や壁と柱の隙間など1 mmぐらいの狭い空所の奥に巣を作るため、室内を殺虫剤で薫蒸しても効果がありません。あまりの被害に引っ越したり、家主との間で訴訟沙汰になった例もあります。また欧米では、建物そのものを放棄した例も知られています。
日本では数年前に新型の殺虫剤が登場しました。それは固形の餌に遅効性の毒を混ぜた毒餌を働きアリに巣まで運ばせ、女王アリや幼虫が食べてしばらくすると全員が死ぬという画期的な商品です。以前は劇的に効果があったようですが、最近甘いものを好むアリにも効くように甘味添加物を混ぜたところ、肝心のイエヒメアリが餌として運ばなくなりほとんど効果がないとの情報が多数のユーザーから本データベースに寄せられています。そこでメーカーは、甘いものが好きなアリ用と肉が好きなアリ用に毒餌を別の皿に分けた製品を販売していますが、効果のほどはまだわかりません。皆さんからの情報をお待ちしております。
ということで、現在画期的な退治方法は確立していませんが、このアリは数が多いこと、壁の隙間の奥に巣を作ること、肉食性が強いなどの特徴があります。今考えられる有効な対策としては、
(1)台所や食堂を清潔にしてアリの餌になる食べ物が床に散乱しないようにする。飼育中のイエヒメアリの実験では、約1000匹の働きアリと12匹の女王アリを含む人工巣で、週2回手の平に軽く一杯ほどの虫(粉蛾30匹とミールウォーム3匹)を食べ、一月の間にアリの数が倍に増えます。また、体が大きい雌アリと雄アリが成長するときは、さらに多くの餌が必用になります。逆に言えば、それだけの餌がなければ巣は維持できないわけです。(2)アリが出て来たら、こまめに根気よく殺虫剤で退治する。
(3)アリの出てくる壁や柱の隙間などを突き止め、ノズル付きの噴霧式殺虫剤を隙間の奥まで散布する。
(4)マンションなど集合住宅の場合は、住人が協力して一斉に上記のアリ退治を行う。一室だけ駆除しても、隣の部屋に巣を移動させてまた繁殖するので効果がありません。
久保田政雄、今井弘民
ヒメアリ
ヒメアリは頭と胸が黄褐色で腹部が黒褐色の体長1.5 mmほどの微小なアリです。イエヒメアリと良くにていますが、腹部が黒い点が特徴です。この種は日本固有種で、関東地方以南の日当たりのよい場所の石の下や枯れた草木の芯に孔を開けて巣を作っています。餌を求めて屋内に侵入し、砂糖・菓子・油・チーズなどの食品に群がり被害を与えます.どちらかというと肉や油を好み、スモークサーモンを切ったあとのまな板の上やビーフジャーキーの袋、さらにオリーブオイルを原料とした高級石鹸をかじった例が本データベースに寄せられています。また、人体にも這い上がって、乳幼児などの皮膚のやわらかい部分を刺すことがあります。チクリとした痛みがあり、痕が赤く小さく腫れます。
イエヒメアリとよくにた形態と習性を持っていますが、イエヒメアリが最初から家屋専門に巣を作るのにたいして、ヒメアリは本来家の周りの自然環境に s生息していたものがたまたま屋内に侵入する点が違います。ヒメアリの方が集団で移動する性質が強いようです。というのは、斥候アリが絶えずうろついていて、どこかに餌か巣に適した場所を見つけると、道しるべ物質という一種の臭いを付けて巣に帰ります。するとその臭いの道をたどって仲間が一斉に行列を作って餌のところに集まったり(数分以内)、新しい巣に引っ越してきます(数時間から一晩)。また、巣にする場所も、イエヒメアリは非常に狭い隙間を好みますが、ヒメアリの場合は、まな板の上にかぶせた布巾の隙間とか、電話の受話器の中、あるいはパソコンのディスク内など閉空所であればどこにでも気軽に巣を移動させてしまうようです。特に電子機器の内部を好むのも特徴のようです(電子機器に侵入するアリ参照)。
駆除方法は、イエヒメアリの場合と同じです。久保田政雄、今井弘民
アメイロアリ、トビイロケアリ、サクラアリ
ヒメアリのように食品に群がることがありますが、毒針がないので人を刺すことはありません。サクラアリは、地中に巣を作る小さなアリで、以前は人目に触れることはほとんどありませんでしたが、最近温暖化のためか所によっては大繁殖し屋内に侵入して食品に群がることが多くなりました。久保田政雄
被害実例:AntQAH03.html(サクラアリ)
被害実例:AntQAH04.html(トビイロシワアリ)
被害実例:AntQAH05.html(ハリブトシリアゲアリ)
アワテコヌカアリ
沖縄方面ではこのアリが屋内に入り、窓枠や机の上などを行列を作って歩いていることがあります。うっかり潰してアリの体液が皮膚につくと、その部分が赤く発疹して、湿疹のようになることが報告されています。久保田政雄
20-3.電子機器に侵入するアリ
機器を損傷するアリ
昭和50年前後に西日本を中心に、鉄道の信号機の故障が多発し、列車の運行に重大な支障が起きたことがありました。信号機を作動させる装置は線路脇に設置されていて、中にリレー装置があり、信号電流に応じて信号燈を点滅するようになっています。この装置の中にルリアリが入り込み、リレーが下がった時に挟まれて潰れ、信号電流が流れなくなったために生じた故障でした。
西日本では、置時計の歯車にオオシワアリがはさまり、時計が止まる故障が発生したことがありました。戦前の時計とは違い、現在では微弱な電流で小さな歯車を廻しているので、小さなアリがはさまっただけで時計は止まってしまいます。時計の製造会社はクレームを受けると、分解修理などはしないで、すぐに新品と交換します。このケースでは、交換しても1、2日後にはまた同じ故障が発生したということです。
高速道路の路肩には一定の間隔で非常用の電話機が設置されていますが、これが軒並みにルリアリによって被害を受けることが知られています。電話機の中の狭い隙間にルリアリが巣を作り、食べ物のかすや死骸を1ヵ所にまとめる習性があるので、これから生じる有機酸などによって細い配線や基盤が腐蝕して、作動不良の原因になります。現在の電子機器は心臓部が大変小形化されているので、アリ害が起きやすいのです。同じような例は、公衆電話、屋外設置の放送機器、自動車の電子部品などでも発生し、パソコン関係の部品が故障する原因の一つにもなっています。
ルリアリは多くの場合屋外の電子機器に巣を作る傾向があり、これと似た被害を与えるヒメアリの場合は屋内の電子機器に侵入するようです。ルリアリは電話線の被覆や鉛の被覆まで食い破ることが知られています。久保田政雄
電子機器メーカーからの問い合わせとアリ害の対策
アリ類データベースには、ユーザーから多くのメールが寄せられます。その中にハイテク電子機器メーカーからの問い合わせがかなりあります。企業秘密が絡むので具体的な事例は示すことはできませんが、例えば、携帯電話の受話器内やパソコンのハードディスクの基盤の隙間にアリが巣を作った場合、自動車の窓の開閉制御装置の電磁弁や置き時計の歯車の間にアリが挟まったケース、あるいはカメラのファインダーの中に入り込んだアリなどの問い合わせがありました。
いずれも電子機器を搭載した精密機械の中にアリが住みついて、アリの出す食べかすや分泌物のために電子回路が破壊されたり、機械の部品の間にアリが挟まって電流が通りにくくなったり、部品が機能しなくなったために生じた故障でした。
このような電子機器の故障の原因になるアリは、ほとんどの場合ヒメアリとルリアリです。これらのアリは、自然状態では関東以南の温暖な地方の人家の周りにある枯草や枯れ枝の茎に小さな穴を開けて巣にしていますが、家の中にも入り込む性質があります。一昔前までは、家に入っても壁と柱の隙間などに巣を作る程度でしたが、最近急速に電子機器が小形化して一般家庭に普及したため、アリの格好の住みかになったようです。
メーカーは、アリの害などまったく予想しないで設計をしているので、電子機器の多くは堅牢なカバーで覆われた狭い空間に部品がびっしり詰め込まれているうえに、それらの部品は配線や空気抜きの小さな穴で外部とつながっています。一方ヒメアリやルリアリは、元々狭い閉じた空所を好む性質をもっているので、小さな出入り口のついた電子機器ははからずも巣として最高の条件を満たしているのです。また部品の潤滑油として植物性のひまし油などを使用している場合、それはアリの好物なので、アリを引きつける働きがあります。
これらのアリは、普段家の中に斥候アリがウロウロしていて、巣に都合の良い場所を探しています。その内の1匹がたまたま巣として絶好の場所を探し当てると、そのアリはお尻から道しるべになる臭い物質を出して巣まで戻ります。すると仲間のアリ達がその臭いの道をたどって一斉に新しい巣に引っ越してきます。引っ越しにかかる時間は、数時間かせいぜい一晩です!
これらのアリに一度取りつかれたら打つ手はありません。大事なことは、電子機器に侵入されないようにあらかじめ対策をたてることです。有効な対策としては、まず機器の外部に通じる配線用の穴や空気抜きの穴を、アリが通れないくらいの大きさに設計することです。ヒメアリの場合は、体長は2 mmほどですが、頭の厚みは0.15-0.35 mmほどです。逆に言えば、これくらいの隙間があれば機器内に侵入できるということです。ですから、アリが入らないためには、穴の直径を0.15 mm以下にするかまたは同等の大きさの網で覆う必要があります。その他、これらのアリは配線を伝わって機器に侵入するケースが多いので、配線が床や壁に接しないように配慮することが有効だと思われます。これと関連して、機器の空気穴などの取り付け位置をできるだけ高い位置にすることも効果があると思います。機器内の営巣の位置は、床面と側壁面の狭い隙間を利用する傾向があるので、基盤などの取り付けを天井面にすることも有効かもしれません。今井弘民
久保田政雄(ありとあらゆるアリの話1988)(5.コンピュータも止めるアリの害)20-4.羽アリの被害
春から夏にかけて、アリの巣からたくさんの羽アリが飛びだします。これは雌アリと雄アリに翅が生えていて、結婚飛行のために空中に飛びだすからです。結婚飛行の時間は、種類によって昼間のこともあり夕方のこともあります。羽アリの被害の多くは、日没後に飛びだすクロクサアリやトビイロケアリの仲間のようです。このアリの大群が商店や駅の窓口の灯火に誘引されて飛来したため、一時的に業務ができなくなったことがあります。また鉄道の線路上にこの種の羽アリが群飛しているところを列車が通過して、運転席の前面のガラスに羽アリが衝突して前方が見えなくなり、列車の運転が不能になった例もあります。その他にも、夏の終わりに小さなキイロシリアゲアリの羽アリが網戸の目をくぐり抜けて夕食時にテーブルの上を飛び回ることがあります。あまり気持ちの良いものではありませんが、この種のアリは病原菌を持っていません。このために病気になったという報告はありません。こういう虫を不快昆虫といいます。中には大騒ぎして市役所に電話してアリの巣を退治してもらう人もいます。しかしアリ学を志す我々としては、羽アリが来るということは周辺にまだ自然が残っている証拠だと考えて、食卓を灯火からずらすとかあるいは食事の時間をずらすとかして、アリと共存するやさしい心を持っていただければと願っています。とはいっても羽アリの飛来は、菓子や食品製造会社にとっては、大変やっかいな代物のようです。病気などの実害は無いとはいえ、菓子の包みを開いたらアリが入っていたというのは衛生上決して好ましいものではありません。食品製造工場では、網戸や電殺機で侵入を幾重にも防いでいますが、なにしろ小さくて数が多いので、対策には神経を使っているようです。久保田政雄
アリの行列
アリの行列は、餌を見つけたときや巣を引っ越すときによく見られます。アリはヒトと同じように社会生活をしているので、何かするとき仲間と共同して作業します。そんな時、仲間に情報を伝えなければなりませんが、ヒトと違って、言葉で自分の意志を伝えることができません。その代わり臭いを使って情報を伝えます。つまり、臭いがヒトの言葉の働きをしています(アリの言葉参照)。
例えば、1匹のアリが台所で砂糖を見つけたとき、お尻から臭いを出して地面に印をつけながら巣に帰ります。すると仲間のアリが、その臭いを嗅ぎながらゾロゾロと餌のあるところまで行きます。それがアリの行列です。また、巣を引っ越すとき、1匹のアリが新しい巣に丁度よい場所を探したとき、やはり臭いを出しながら巣に戻ります。すると、仲間のアリがその臭いを頼りに新しい巣の場所までゾロゾロと行列を作って移動します。今井弘民
アリの言葉
社会生活をする生物は、なんらかの方法でお互いに情報を交換(コミュニケーション)する必要があります。例えばヒトでは、おもに話言葉(音声言語)や文字(記号言語)で意志を伝えますが、その他に「ハイ」と言うかわりにうなずいたり、「そこ」と言うかわりに指さしたりします。このようにヒトが意志を伝達する手段にはさまざまな方法がありますが,生物によっては思いも寄らない方法でコミュニケーションする例が知られています.例えばミツバチでは,8の字ダンスによって花のある場所の方角と距離を仲間に知らせます.これは視覚を使ったコミュニケーションで一種の言葉ですが、アリは地下の生活に適応したため目があまり見えないので、この方法は採用しませんでした。また音によるコミュニケーションも、危険を感じたアリが体を地面に打ち付けたり関節をすり合わせて「振動」として危険を仲間に伝える以外、あまり使われていません。その代わりにほとんどのアリは臭いによってコミュニケーションします。アリの体には、あごや腹の先を中心に色々な臭い(フェロモン)を出す分泌腺が発達しています。これらのフェロモンを言葉として巧みに使って複雑な社会生活を営んでいるのです。アリの言葉をいくつか紹介しましょう。
あいさつの言葉
2匹のアリが出会うと、お互いに触角で相手の体を触る光景がよく見られます。これは一般にアリのあいさつと考えられています。自分と同じ巣のアリだとしばらくあいさつしてスッと分かれますが、もし違う巣のアリ同士の場合や違う種のアリ同士だと猛烈に取っ組み合いをして、どちらか一方が時には両方とも死んでしまいます。これは、アリの触角が人間の鼻に相当する臭いの検出器官で、あいさつと見えるのは実はお互いの体の臭いを嗅ぎあっているのです。
アリの体の表面は炭化水素化合物(一種のロウ物質)で被われています。この物質が、種によって、さらに同じ種でもコロニーによって微妙に違っています。アリの触角は大変感度がよいので、その違いをかぎ分けることができるのです。同じ臭い同士だと同じ巣の仲間と認識して安心して分かれます。このしぐさがいかにも親しげにあいさつをしているように見えるのです。しかし一端違う臭いと分かると、それは(たとえ同じ種でも)自分のなわばりを侵すライバルです。自分を守るには相手を殺すしかないとお互いに判断して、殺し合いになるわけです。つまり、体臭が敵味方を識別する言葉の役目をしているわけです。
アリの埋葬
アリは「あいさつ」と同じ仕組みで、生きているアリと死んだアリの区別もします。アリを飼育していると、ときどきアリの死ぬ瞬間を観察することがあります。アリの死は実に孤独です。足を引きずりながらよたよたと歩いてきたかとおもうと、突然足を痙攣させひっくり返って動かなくなります。ヒトのように病気になったら身内が看病したりしません。たまたま側を通りすぎるアリがいても、何も関心を示しません。しかし死んでから数時間たつと、通りかかったアリが触角でさかんに死んだアリを触るようになり、最後にごみ捨て場に引きずってゆき食べかすと一緒に埋めてしまいます。一見埋葬のようにも見えますが、実はもっと機械的な条件反射です。つまり、死にかけのアリや死んだ直後のアリは、体臭がまだ生きているときと同じなので、仲間が死にかけているとか死んだとかいう認識がないのです。しかし、時間が経つにつれて臭いが変化してくるので、今度はゴミとして認識され、巣が汚れないようごみ捨て場に持ってゆくわけです。
臭いでアリをだます
アリは目があまり見えないので臭いで仲間を識別しますが、この性質を逆に利用して、アリの巣に居候をする昆虫や、別のアリの巣を乗っ取ったりするアリが知られています。例えば、アリズカコウロギというアリの巣に居候をするコウロギの仲間が知られています。このコウロギはアリと同じ臭いを出してアリから攻撃されないようにして、アリの巣に住み着き、アリのおこぼれをくすねています。アリの仲間を識別する仕組みを悪用しているわけです。また、サムライアリの女王アリは、結婚飛行を終えるとクロヤマアリの巣に入り込み、クロヤマアリの女王アリの背中に馬乗りになります。そして、その臭いを自分の体に移すとクロヤマアリの女王アリを殺して自分が女王アリになりすまします。クロヤマアリの働きアリはこのことに気づかないで、偽のパスポートをもった新女王の世話をし続けます。この話、だました方が賢いのでしょうか?それともだまされた方が愚かなのでしょうか?とにかく臭いの言葉はこんなことにも使われています。
餌のある場所を知らせる言葉
アリは、その小さな体にもかかわらず、巣から数メートル時には10数メートルもの範囲をくまなくパトロールして、餌を探します。もし1匹のアリが、アリにとって広大な餌場のどこかで大きな餌を見つけたとします。自分だけで巣に運ぶには大きすぎるし、かといって自分が持てるだけ持ち帰るのはもったいない。そんなとき、ヒトは「おーい、餌を見つけたぞー」とか大声で叫んで仲間を呼びますが、アリは声を出すことが出来ません。でもしばらくするとちゃんと仲間が集まってきて餌を運んでゆきます。その仕組みにも臭いの言葉が使われています。
まず、最初に餌を見つけたアリが、自分が持てるだけの餌をくわえると、お尻から「道しるべフェロモン」と呼ばれている臭いの液を点々と地面につけながら巣に帰ります。すると臭いは次第に拡散して、アリの通った道に沿って「臭いのトンネル」ができます。この臭いを嗅いだアリは、トンネルに沿って歩いてゆき簡単に確実に餌の場所にたどり着くことが出来ます。そしてこのアリも同じように臭いをつけながら今来た道を戻ります。こうして、餌がある間は臭いの道が強くなり、たくさんのアリが集まって大きな「アリの道」ができます。しかし、餌が無くなるとアリは臭いを出さなくなります。するとしばらくして臭いのトンネルは拡散して消えてなくなります。つまりアリでは、「臭い」が仲間に餌の場所を知らせる「言葉」の役割をはたしているわけです。
アリが台所の棚にある砂糖壺に集るのは、このような仕組みを利用しているのです。また道しるべフェロモンは、餌を運ぶときだけでなく、新しい巣に引っ越しをするときなどにも使われます。例えば、ヒメアリが机の上に置いた携帯電話の受話器の中に一晩で巣を作ることがあります。どうしてこんなところをアリが見つけたかと不思議に思われるでしょう。それはこのアリが狭い空所を好んで巣にする性質があって、斥候アリが絶えず部屋の中を物色しているのです。たまたま1匹のアリがそれを見つけて巣に適していると判断して道しるべフェロモンを出して巣に戻れば、たちまち女王アリ以下大軍団が臭いの道をたどって移動してくるわけです。
危険を知らせる言葉
アリが敵に襲われて危険にさらされたとき、その危険を仲間に知らせて応援を頼みます。その仕組みもやはり臭いを使います。ここで使う臭いは、「警報物質」と呼ばれる一種のフェロモンです。この臭いが周囲に拡散してゆくとき、臭いの濃度が薄い周辺部ではアリを引きつける働きがあります。しかし、濃度の高い中心部に来るとアリを怒らせ攻撃態勢をとらせる作用があるようです。アリの巣をうっかり踏んだ時など、驚いたアリがこの物質をだすので、数百のアリが一斉に狂ったようにところかまわず走りまわり見境なく噛みついたり刺したりします。このアリの総攻撃に会うと、ヒトも含めてたいていの動物は退散せざるを得ません。つまり警報物質は、「敵が来たぞー」とか「危険だぞー」という情報を瞬時に的確に仲間に伝え、巣を守るための言葉として立派に役立っているわけです。
子供を育てる時の言葉
アリの子供(幼虫)は手足がないウジ虫形なので、自分で餌を探して食べることはできません。働きアリに完全保育をしてもらいます。例えばオーストラリア産トビキバアリ(Myrmecia)では、幼虫がお腹が空くと首を伸ばして特別な臭いを出します。するとその臭いを嗅いだ働きアリは餌探しに出かけ、飛んでいるハエをジャンプして捕まえ一瞬にして針で刺し殺します。こうして捕らえた獲物を巣に運び幼虫に食べさせます。幼虫が満腹になると臭いを出さなくなり、働きアリは餌取り行動をやめます。つまり幼虫の出す臭いは、「お腹が空いた」という言葉と同じ役目をはたしたわけです。
さて、こうして必要なときに必要なだけ餌が与えられて幼虫が育つと、最後に繭(まゆ)を作って蛹になります。アリの幼虫は手足がないので自分一人では繭を作ることが出来ません。そんなとき、幼虫は別の臭いを出します。すると働きアリは、幼虫のまわりに砂粒を積み上げて生き埋めにしてしまいます。砂に埋もれた幼虫は、口から糸を吐き出して砂粒を綴り合わせ、それを足がかりにして繭を作り、蛹になります。繭ができ上がると臭いの性質が変化して、働きアリは一度埋めたまゆを掘りだし、まゆに付いている砂粒を丁寧に取り除きます。この場合の幼虫の出す臭いは、ヒトの言葉に翻訳すると「まゆを作りたいから砂をかけて」とか「まゆを作り終えたから砂を取り除いて」という言葉にそうとうします。このように言葉も文字も無いアリが、臭いを巧みに使い分けて高度な社会行動を営む様子を見ると、臭いの言葉も侮れないものがあります。今井弘民
アリの大きさ
アリは昆虫の中でも小さいほうで、日本では1 mm – 1.3 cm くらいの大きさです。1番小さい種としては、ヒメコツノアリの小型働きアリとヒメセダカウロコアリの働きアリでいずれも1 mm弱です。また最大のアリとしては、オオアリの仲間のクロオオアリやムネアカオオアリの大型働きアリの1.3 cmです。もちろん女王アリは働きアリよりも大きくなりますが、クロオオアリやムネアカオオアリでもせいぜい2 cm前後です。
世界に目をむけると、もっと大きなアリ(3 cm)が知られています。例えば、南米産のオソレハリアリ、オーストラリア産のキバアリ、東南アジア産のギガスオオアリなどです。これくらい大きなアリになると屈強な大人でもたじろぐほどの迫力があります。というのはオソレハリアリやキバアリは大きな毒針を持っていて、これに刺されると気を失うほどの痛みがあります。また、ギガスオオアリの鋭いあごで咬まれると指先がスパッと切れてしまうからです。
アリの進化の途中には現在では考えられないような大きなアリが出現したことが知られています。ドイツのメッセルで発見された4900万年前の化石アリ(メッセルオオカセキアリ)は翅を広げるとなんと12-15 cmもあります!ただしこれは例外で、アリは1匹1匹の体を小さくするかわりに、社会生活をして仲間の数を増やすことで、全体として生存競争を勝ち抜く方向に進化した昆虫のようです。今井弘民
アリの進化
アリは社会性昆虫の代表で、現在17亜科297属約8,800種知られています(Bolton, 1994).アリがハチから進化してきたことは確かですが、いつどんなハチの仲間からどのようにして進化したかは、人によって見解が違うようです。進化の話は、1000万年とか1億年単位の話なので、実験で確かめることはできません。もっとも確実な証拠は、年代のはっきりした化石を見つけることです。アリの場合は、幸運にも、コハク(松やにの化石)に封じ込められた形で発見されますので、体の細かな特徴を知ることができます。アリを含むコハクとして有名なものに、ニュージャージーコハク(New Jergy amber, 9000-11000万年前)、サハリンコハク(Sakhalin amber, 6000万年前)、バルトコハク(Baltic amber, 4500万年前)、ドミニカコハク(Dominican amber, 2000万年前)が知られています。これらの断片的な化石証拠をつづり合わせるとアリの進化の道筋はおおよそ次のようになるようです。
(1)最初のアリの出現
現在知られている最古のアリ化石は、米国のニュージャージーコハク(中生代白亜紀中期, 約9000万年前)から発見されたアケボノアリ(Sphecomyrma)です。最近同じ年代のコハクから、ヤマアリ亜科(Formicinae)とハリアリ亜科(Ponerinae)の化石が相次いで発見されました。アケボノアリは独立した亜科と考えられているので、他のハチの化石と比較すると、これらの亜科に共通なアリの先祖は、中生代白亜紀前期の約1億2千500万年ほど前にスズメバチ(Vespidae)の先祖から分かれたと考えられています。
アリの進化の第一歩は、社会性と地中営巣性の獲得にあったようです(アリの社会参照)。アリの社会性は、最初複数の女王アリが共同して営巣することから始まったと考えられています(多雌創設)。その後次第に産卵専門と雑用専門に仕事の分担をするようになり、女王アリと働きアリが分化したようです(カースト分化参照)。一方、地中に巣を作ることによって目は役に立たなくなり、代わりに臭いを使ってコミュニケーションをするように適応しました(アリの言葉参照)。このため臭いの器官としての触角が著しく発達しました。触角の根元の柄節(scape)が長くなり、触角を前後左右自由に動かして臭いを立体的に認識でるようになりました。その他、地中は湿っていてカビが生えやすいので、巣の中を殺菌するためにアリ特有の後胸腺(metapleural gland)が発達しました。さらに、狭い穴の中で自由に方向転換が出来るように、胸と腹の間がくびれてそろばん玉のような腹柄(腹柄節、petiole)に変化しました。
発見されたアケボノアリは働きアリの形態をしていて、アリ型の触角を持ち、腹柄と後胸腺が認められるので、少なくとも9000万年前にはすでに社会性を獲得しアリ特有の形態が完成していたことがわかります。ここまで進化するのに約3000万年の時間がかかったわけです。
(2)アリの適応放散
アリの仲間は、白亜紀の間は恐竜の足下で細々と暮らしていたようです。と言うのは、コハクに含まれる昆虫に対するアリの頻度が0.001-0.05%と非常に低いのです。その後約6500万年前に突然地球を襲った巨大隕石のため中生代を君臨した恐竜が絶滅し、時代は哺乳類の活躍する新生代(Cenozoic)になりました。このときアケボノアリも巻き添えになったようですが、その他のアリは幸いにも難をのがれて、新生代第三紀(Tertiary)に爆発的に適応放散を始めました。そのことは、隕石落下から500万年たった新生代最初の暁新世(Paleocene, 6000万年前)のサハリンコハクに含まれるアリの頻度が、全昆虫の1.2%と大幅に増加していることからもうかがえます。
さらに時代が降って4500万年前のバルトコハクからは、現在知られているアリ亜科がほとんど出そろい、全昆虫に占める割合も20-40%と一大勢力になりました。このようなアリの優勢はドミニカコハク(2000万年前)でも確認され、現在も4大昆虫(カブトムシ、ハエ、チョウ、ハチ・アリ)の一つとして繁栄しています。今井弘民
文献:Grimaldi, D. & Agosti, D. (2000). PNAS 97, 13678-13683A formicine in New Jersey Cretaceous amber (Hymenoptera: Formicidae) and early evolution of the ants.
アリの砂かけ
アリは,巣から掘り出した土や砂を巣穴の周りにクレータ状に積み上げたり,アリの道に小さな水たまりやアメなどべた付いたものがあると土や砂をかけて歩きやすくする性質があります.また,アリは大変きれい好きで常に巣の中を掃除してきれいにする性質があります.例えば,アリを飼育していると食べかすや仲間の死がいなどをケージの隅(巣から一番遠いところ)に持っていって捨てますが,その時も土や砂をかけることがあります.さらに脱脂綿にハチミツをしみ込ませたものを人工巣に入れておくと,最初はミツをなめるのですがしばらくするとゴミや死がいで脱脂綿を覆い隠そうとします.
これらの一連の行動を観察していると,お問い合わせの「残った肉と魚の回りに土や細い枝を運んで囲う」行動は,餌として食べていた肉や魚が腐敗していやな臭いを出すようになったので,ゴミとしてあつかい土や砂をかけて埋めてしまおうとしているように思えます.
ヒトは言葉で会話し,大脳で考えて行動をとります.しかし,アリは臭いで情報交換し,本能で反射的に行動します.臭いは一種の言葉です.臭いを頼りに餌を探し,餌を見つけたアリは道しるべ物質という臭いを出して仲間に餌のありかを知らせます(アリの言葉参照).それと同じ理由で,餌が不快な臭いを出すとそれはもはや餌ではなくゴミとして認識するのでしょう.するとゴミを片づけてきれいにしようという本能が働いて反射的に土や砂で埋める行動をとるのだと思います.
「餌なのに土をかけてもったいない,どうしてだろう?」と考えるのはヒトの思考です.アリは,臭いに反射的に反応する精密機械のようなものです.その機械的な反応が巧みに組み合わせられて,高度なアリの社会が形成されているのを見ると,我々人間はアリが思慮深い英知の持ち主のように見えてしまいます.しかし機械であるがゆえに,時にヒトには理解しがたい行動をとることもあるのです.例えば,今まで元気に歩いていたアリが急にひっくり返って断末魔の痙攣することがあります.そんなとき,ヒトはたとえ見ず知らずの人でも救急車を呼んで助けようとするでしょうが,アリはたまたま側を通りかかってもっても知らんふりです.そのアリは,数分して一人寂しく?死んでしまいます.アリの死は大変孤独です!しかしさらに驚くべきことは,アリが死んで数時間すると,側を通りかかったアリが突然そのアリをくわえてゴミ捨てまで引きずっていいき,土をかけて埋めます.一見ヒトの埋葬シーンを思わせます.しかし実は,死んだアリの体からアリとしての臭いが消えて,腐敗した不快な臭いが出始めたため,ゴミとしての扱いを受けたのです.そこには哀れみとか悲しみとかいう感情は少しもありません.
これが,アリ達が1億年かけて進化させた社会の仕組みの一端です.理由はどうあれ,結果として土や砂をかけてゴミを埋めるのは,アリにとって巣を清潔に保つために大変優れた仕組みです.今井弘民
チョウを育てるアリ
A:本当です。いろいろのチョウが幼虫のときアリに育ててもらっています。たとえば、クロシジミというシジミチョウ科のチョウは、幼虫のときクロオオアリの巣の中でアリに育ててもらって越冬します。アリからえさを口うつしで食べさせてもらうのです。クロシジミの幼虫は背中にある蜜腺(みつせん)から蜜をだし、アリはその蜜を飲むことが大好きなようです。
Q:クロシジミの幼虫はどんなにしてアリの巣に入るのですか?
A:クロシジミの母親はクロオオアリがたくさん登ってきている木を見つけて、その小枝に卵を産みつけます。クロオオアリはこの木に寄生しているアブラムシ(アリマキ)やキジラミが出す分泌物(ぶんぴつぶつ)を飲みに集まってきているのです。卵から生まれたクロシジミの幼虫はアブラムシやキジラミが出す分泌物を飲んでいますが、そのうちにアリにくわえられてアリの巣に運ばれ育てられるのです。
Q:クロシジミのほかにはどんなチョウがアリに育ててもらっているのですか?
A:キマダラルリツバメというシジミチョウ科のチョウも幼虫のときハリブトシリアゲアリの巣の中でアリに口移しにえさをもらって育てられます。
Q:チョウとアリはお互いに利益があるので仲良くしているのですね。
A:そうです。お互いに利益があるように思われる共生の例ですね。しかし、もっと変わった生活をするチョウは、ゴマシジミとオオゴマシジミです。おどろいたことには、これらのチョウの幼虫はクシケアリ属のアリの巣の中でアリの幼虫を食べながら越冬するのです。
Q:えっ、それじゃあアリは大変じゃあないですか!
A:アリの群れにとっては大変なことでしょうね。しかし、アリはチョウの幼虫をいじめたり、殺したりはしないのですよ。
Q:どうしてですか?
A:どうしてでしょうかね。最初、チョウの幼虫は花や花のつぼみを食べているのです。ゴマシジミはバラ科のワレモコウの花穂に、オオゴマシジミはシソ科のカメバヒキオコシやクロバナヒキオコシの花穂に卵を産みつけます。卵から生まれた幼虫は花や花のつぼみを食べているのですが、そのうちにクシケアリ属のアリにくわえられて朽ちた倒木の下などにあるアリの巣の中に運ばれていきます。そして、アリの巣の中でアリの幼虫を食べて大きくなり、翌年アリの巣の中でサナギになり、夏に羽化してチョウになるのです。はじめは植物食だったのに、アリの巣の中では肉食にかわってしまうのですね。
Q:アリは自分たちの子供が食べられてしまうのに、どうしてチョウの幼虫を自分たちの巣のなかに連れてきてしまうのですか?
A:不思議ですね。それについては、ひとつヒントになる観察記録があります。それは50年ほど前に私が行った観察記録なのです。実は、オオゴマシジミの生活史は中学生のとき私が初めて明らかにしたのです(文献1、2)。当時、オオゴマシジミやゴマシジミの生活史はまだだれも調べていなかったのです。磐瀬太郎著の「日本産蝶類生活史覚え書(三)」(宝塚昆虫館報55号、1949年)」には、ヨーロッパ産のゴウザンゴマシジミの例から考えてオオゴマシジミもアリの巣に入る可能性があると書かれていて、そしてその文の最後に「本邦で未だ一度も試みられたことのないこの神秘境の初探検者は誰であろうか」と書かれていたのでした。この文を読んで中学生だった私は自分でオオゴマシジミの生活史を調べてみたいと考えたのです。
Q:土の中のアリの巣をどんなにして観察したのですか?
A:私はオオゴマシジミの幼虫が生活するようすを、お菓子の木箱と石膏(せっこう)とガラス板を使って自分で作ったアリの人工巣(ホイラー氏の人工巣)の中で観察したのです。それは一つの大部屋と二つの小部屋からできておりました。大部屋には野外から吸虫管を使って採集してきたクシケアリ属のアリの巣があり、小部屋の一つにはアリのえさになる半殺しのクモなどが入れてありました。そして、もう一つの小部屋に、カメバヒキオコシの花を食べていたオオゴマシジミの幼虫を入れておきました。それぞれの部屋には小さな入り口があり、アリは自由に行き来していました。
じっとガラス越しに観察していると、小部屋にやって来た一匹のアリがオオゴマシジミのピンク色の幼虫を見つけると触覚(しょっかく)で幼虫のからだをたたき始めました。するとチョウの幼虫は胸の部分をふくらませ、アリは幼虫の背中に口を押しつけて何かしています。ルーペで拡大して観察すると幼虫は背中にある蜜腺から何か液体を出し、アリはそれを飲んでいるのです。それから、アリは口の大きなキバで幼虫をヒョイとくわえると、トコトコと大部屋の自分たちの巣の中に運びこんでしまったのでした。
(図)私が作ったアリの人工巣
Q:やはり、アリはチョウの幼虫の出す蜜が好きだったのですね。
A:そうですね。ところがアリの巣に入りアリの幼虫を食べだしてからは、アリに蜜を飲ますことはしなくなりました。
Q:それでは、アリにとっては不利なことだけになりますね。
A:共生というより、どちらかといえば寄生生活ということになりますね。
(イラスト)高校生のとき描いたオオゴマシジミの幼虫とアリのマンガ
G:何という名前のアリがオオゴマシジミを育てるのですか?
A:私は50年前に人工巣でオオゴマシジミの観察に使ったアリを乾燥標本にして、今まで大切に保管してきました。最近それをアリの分類の専門家に調べてもらったら、シワクシケアリであることが分かりました。そして、その同定結果を論文にして発表しました。50年後に「オオゴマシジミの生態:第3報」として発表したのです(文献3)。私が中学生のとき顕微鏡で観察しながら描いた絵からも、そのアリがシワクシケアリであることがわかります。やはり、正確な記録をとることと、証拠の標本を保存しておくことは大切ですね。
(図)中学生のとき描いたオオゴマシジミのホストになったシワクシケアリ
Q:ほかのアリはどうなのですか?
A:私が50年前に観察記録を発表した後、オオゴマシジミの生活を調べた人は今までに何人かいて、野外観察でクシケアリ属のアリの巣からオオゴマシジミの幼虫やサナギを採集しています。しかし、二人の昆虫写真家はアシナガアリ属のヤマトアシナガアリ(ヤマアシナガアリともいう)がオオゴマシジミのホストだと発表しています(文献4、5、6、7)。ところが、この昆虫写真家たちの発表している生態写真の中でオオゴマシジミの幼虫やサナギと一緒に写っているアリはどれもクシケアリ属のアリで、アシナガアリ属のアリではないようなのです。これはどういうことでしょうか? なにか間違いでもあったのでしょうか?
オオゴマシジミのすんでいる地域にはシワクシケアリとヤマトアシナガアリとが両方すんでいることが多いので、これらのアリの違いをよく知った上で野外観察をしないとアリを採り違えてしまうことがありそうです。しかし、この2種のアリを比較すると違うところが沢山ありますから、顕微鏡などで拡大して注意深く観察すれば種の判定はアマチュアにもできるでしょう。
現在、「ヤマトアシナガアリは本当にオオゴマシジミのホストになるのか」ということが、チョウの生態の研究者の間で話題になっているのです(文献3参照)。
Q:まだ研究することが残されているということですか?
A:そうです。まだまだ調べなければならないことが多いのですよ。
「ヤマトアシナガアリはオオゴマシジミのホストになるのか? ならないのか?」
どなたかが確かな証拠を示してくれることを期待しています。その結果を論文にして発表するときには、種の同定に必要なアリのからだの部分が鮮明に写った拡大写真か、あるいはアリを詳細にスケッチした図を示し、さらにそのアリの標本を大切に保存しておいてください。生物の分類学は時代とともに少しずつ変わっていくのですから、証拠の標本を半永久的に保存しておくことが重要なのです。平賀 壯太(ひらが そうた)
図の説明:
シワクシケアリとヤマトアシナガアリの違いを簡単な比較図に示しました。クシケアリ属には他にも似た種類が沢山いますから、CDを参考にして注意深く観察してください。(写真、アリの比較、そちらでCDから取り出した背面の写真を並べて下さい)
左、シワクシケアリ。右、ヤマトアシナガアリ。ヤマトアシナガアリは肩が「なで肩」で、ほっそりした体です。
(図、アリの比較、胸部側面の絵、平賀作成)
上、シワクシケアリ。下、ヤマトアシナガアリ。違いが沢山あります。
(図、アリの比較、頭部の下面、平賀作成)
頭部の下側。左、シワクシケアリ。右、ヤマトアシナガアリ。しわの方向が違いますからすぐに分かります(平賀が発見した違い)。
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文献
1. 平賀 壯太(1952)オオゴマシジミの生態.新昆虫,5(2):16〜1. 北隆館.2. 平賀 壯太(1955)オオゴマシジミの生態[第II報].新昆虫,8 (3):7〜14. 北隆館.
3. 平賀 壯太(2001)オオゴマシジミの生態: 第3報.越佐昆虫同好会会報,
85:3〜6.
4. 山口 進[著]・白水 隆[校閲](1988)五麗蝶譜.講談社.
5. 渡辺康之 (1987) オオゴマシジミの生態ム第1報. 蝶研フィールド, 2(2):22〜26.
6. 渡辺康之 (1989) オオゴマシジミの生態ム第2報. 蝶研フィールド, 4 (6) : 5〜8.
7. 渡辺康之 (1999) ゴマシジミ類とアリの深い関係. ゆずりは, Summer 2 : 9〜12.
中学生や一般向き読み物
1.「南魚沼のファーブル 昆虫少年物語」(平賀壯太が中学生のとき行ったオオゴマシジミの生活史研究の物語。アリの人工巣の作り方が書いてある。)2001年.
2.「オオゴマシジミ 迎えて舞う」(上記の本の出版記念のため2001年8月4日に六日町文化会館で行われた平賀壯太の講演の記録や文献1、2、3などが収録されている)2001年.
両書とも新潟県南魚沼郡 六日町地区理科教育センター編集発行。購入は六日町北辰小学校FAX:0257ム73ム6746.
3. 磐瀬太郎「肉食のチョウ幼虫」1967年 インセクタリウム4巻10号.
4. 矢島稔「蝶を育てるアリ」文春新書.
蝶類の生態図鑑
原色日本蝶類幼虫大図鑑 I. 白水隆著 保育社.原色日本蝶類幼虫大図鑑 II. 白水隆著 保育社.
原色日本昆虫生態図巻III チョウ編. 1978年 保育社.
原色日本蝶類生態図巻III. 1984年 保育社.