アリ科では胸部と腹部の間に,1節もしくは2節よりなる明瞭な“ふし”が存在する。この“ふし”のことを腹柄(abdominal pedicel)とよぶ。腹柄は腹柄節のみからなる場合と腹柄節+後腹柄節からなる場合がある。
腹柄節(petiole):形態学上の腹部第2節に相当する。腹柄節はノコギリハリアリのように腹部と幅広く接続するもの,多くのフタフシアリ亜科のように柄部(peduncle)と丘部(node)をもつもの,ルリアリのように鱗片状となるもの,コヌカアリのように小さな管状となるものなど様々で,その形状は非常に重要な分類学的形質である。腹柄節腹面には板状やとげ状などの突起が生じることがあり,これを腹柄節下部突起(subpetiolar process)という。この突起の有無や形状は属や種を分類する際によく使用される。
後腹柄節(postpetiole):形態学上の真の腹部第3節のことであるが,通常フタフシアリ亜科のようにこの節が後続の節とくびれによって明瞭に区別できる場合にのみ用いられる。この用語はハリアリ亜科のアリでも用いられる場合があるが,ここではこの仲間のアリの真の腹部第3節は「腹部第1節」と表現した。
腹部(gaster):ここでの腹部とは腹柄より後方の部分のことで,形態学上の真の腹部(abdomen)と区別するため,膨腹部と称されることもある。後腹柄節の分化の有無によって腹部の節数は異なる。後腹柄節を持つものでは,“腹部”とは真の腹部第4節以降をさし,その節数は4節,後腹柄節を持たないものは真の腹部第3節以降をさし,節数は5節である。ただしコヌカアリ属のように後腹柄節はないが外観からは働きアリで4節の場合もある。腹部の節数は多くの場合,雌アリと働きアリでは同じである。腹部末端は主に亜科レベルでの分類を行う上で重要で,刺針を備えているもの,スリット状に開口するもの,円錐状で丸く開口するものなどがある。雄アリの腹部末端の構造は雌アリや働きアリとはかなり異なっており,また腹部の節数も背板で雌アリや働きアリより1節多く,腹板では2節多い。雄アリの形態学上の第9節腹板は亜生殖板(subgenital plate)とよばれ,しばしば重要な分類学的形質となる。
解説者:緒方 一夫