体長1-20 mmほどの小形のハチ.和名は種によっては翅を欠き,一見アリに見えるものがあることから名付けられた.世界で6亜科83属約1900種が記載されている.アリガタバチのメスは腹部に達した毒腺を持っており,寄主の幼虫や蛹を発見すると,これらの体を刺針で刺して麻痺させた後に産卵を行う.自己防衛のために人を刺す場合も多い.これまでに生態の知られている種のすべてが昆虫へ外部捕食寄生を行なう.なかでも鱗翅目や鞘翅目の幼虫に寄生するものが多く,果樹害虫や林業害虫を防除するための天敵としての利用が各国で試みられている.その一方で,家屋内で発生する種があり,それらのメス個体に刺される被害が大きな問題ともなっており,益虫と衛生害虫という両側面をもっている.
日本からは2001年12月現在,4亜科17属86種が得られており,特にコナアリガタバチ属のシバンムシアリガタバチ Cephalonomia gallicolaとホソアリガタバチ属のホソアリガタバチ Sclerodermus harmandiがしばしば家屋内に発生し,刺される被害が見られる.これらの発生を防ぐためには,まずこれらの種の寄主昆虫を探しだし,家屋から取り除くことであろう.
体長2.5 mm以下の小形のハチ.世界で約30種が記載されている.種によっては穀物倉庫に発生する甲虫の幼虫に寄生し,世界各地から得られているものもある.雌雄いずれにあっても種によっては無翅型,有翅型,あるいは短翅型が存在する.触角が12節で中胸背縦斜溝を欠く.有翅型では径脈,基脈,臀脈を欠く.
日本からは3種が報告されており,内1種が家屋内に発生し,人を刺す被害が多く報じられていることで有名なシバンムシアリガタバチ(C. gallicola)である.
メスの体長2 mm.体は黄色から黄褐色.頭部は長方形(図1).メスは常に無翅で,オスは有翅と無翅の2型がある.
畳や乾燥植物質に発生するシバンムシ類の幼虫と蛹に寄生する.体長に比して,毒針による皮膚の症状は割合に激しく,刺された後,1―2日たって刺された部分が直径1―3cm程に赤く腫れ,掻痒感が数日続く.夜間に刺されるケースが多い.かゆみを止めるには,抗ヒスタミン系の軟膏を塗ると良い.
世界に広く分布し,日本では北海道から九州の家屋内で発見され,野外ではほとんど得られない.
小形の種からなり,世界で約70種が知られている.旧北区,東洋区,そしてハワイ地域から比較的多くの種が記載されているが,分類学的な再検討を必要としている.
メスは無翅の種が多いが,種によっては雌雄ともに有翅型,あるいは有翅型と短翅型,あるいは無翅型となる種も存在する.有翅型では径脈を欠く.
日本ではホソアリガタバチとオガサワラホソアリガタバチの2種が知られている.
メスは無翅の個体が多く有翅型は少ない.無翅型の体長4 mm程度(図2).頭部と胸部は褐色から暗褐色,腹部は暗褐色から黒色.触角は黄褐色.背方から見て腹部第1節の前側縁は丸みを帯び,前縁は弧をえがきへこまない.オスは常に有翅で体長2 mm程度.
カミキリムシ,タマムシ,シバンムシ類を中心とした甲虫類の幼虫に寄生する.家屋内でシバンムシ類が発生した場合や,家屋内の柱や梁,あるいは家屋周辺の木材に甲虫類の幼虫がいた場合,本種がそれを寄主として同時に発生する場合がある.夜間に刺されるケースが多く,特に眼を刺された眼障害患者がこれまでに複数名知られていることや,学校内で大発生し,集団皮膚炎を引き起こしたケースがある.メス親は卵から幼虫がかえった後も幼虫の脇におり,子を守る行動が観察されている.
日本,韓国,台湾,中国に広く分布し,日本では北海道,本州,四国,九州,小笠原諸島,南西諸島に生息する.寺山守