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アリ学入門書
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5.胸部


 アリ類は他の膜翅目(ハチ目)の細腰亜目同様,前胸・中胸・後胸と腹部第1節は互いに密接につながって,ひとつのかたまりを形成する。これをmesosoma(中体節)とかalitrunk(有翅体節)あるいはtrunkと称している。検索表で使用する‘胸部’とはこれらの部分を指し,正確には前胸,中胸,後胸に前伸腹節すなわち真の腹部第1節を含めたものである。働きアリでは翅がないためこれら各部は融合してしまい,境界がはっきりしない場合が多い。

前胸(prothorax):働きアリでは前胸背板(pronotum)は比較的大きく,前胸側板(propleuron)は背板におおわれる形で左右が中央で合わさっている。前胸腹板(prosternum)は前脚基節の基部にはさまれる形で存在している。分類では前胸背板の形はしばしば重要な形質である。

中胸(mesothorax):働きアリでは中胸背板(mesonotum)と中胸側板(mesopleuron)はほとんど融合しており,しばしば痕跡的に境界部分がくぼみまたは縫合線として残っている。雄アリや雌アリでは一般に中胸背板は前胸背板におおいかぶさる形で存在しており,中胸側板には斜行する溝が走ることがある。働きアリでは一部を除き中胸側板の斜行線は認められない。前中胸縫合線(promesonotal suture)が明瞭かどうかは分類の形質として重要である。中胸側板は,側面域と腹面域が隆起縁で縁どられている。この隆起縁は属によって著しく発達し,しばしば前脚基節の一部をおおう。しかし真の腹板は退化しほとんど残っていない。中胸側板の腹面域の中脚基節の間にはしばしば1対の突起が発達する。

後胸(metathorax):後胸は働きアリの胸部のなかではもっとも退化の著しい部分で,ことに背面域は前伸腹節とほとんど区別できないほど融合している。しばしば背面で中胸背板と前伸腹節の間に認められる溝は後胸背板の痕跡で後胸溝(metanotalgroove)とよばれる。この溝の有無は分類する際にしばしば用いられる。一般にアリ類では胸部後方の側面腹方には後胸腺(metapleural gland)と呼ばれる膨らんだ部分があり後脚基節のすぐ背方に開口している。この器官は防カビ剤を含んだ物質を出すといわれており,アリ科の特徴の一つであるが,カーストや種によっては消失する場合もある。腹面域は中胸と同様に腹板が退化し,突起が生じる場合もある。

前伸腹節(propodeum):前伸腹節は形態学上は腹部第1節で,腹板はないが,明瞭な気門を持つ。この気門の位置は分類をする上でしばしば手がかりとなる。前伸腹節後部背方に1対の前伸腹節刺(propodeal spine)という突起を有することがあり,この形状は種を区別する際に重要である。

 (leg):脚は基部より基節(coxa),転節(trochanter),腿節(たいせつ,femur),脛節(けいせつ,tibia),付節(tarsus)からなり,付節は5節に分節し,先端に爪を備える。脛節外側の剛毛の有無やその数,脛節刺(tibial spur)の数,付節の爪の形状等は分類学的形質として重要である。

解説者:緒方 一夫