「日本産アリ類学名シノニムさくいん ver. 1.0.1」について
私たちがこのデータベースで扱っているアリには2つの名前がついています。ひとつはクロヤマアリとかクロオオアリなど、カタカナで表記される日本で通用する名前、つまり和名(わめい)です。もうひとつはFormica japonicaとかCamponotus japonicusなど、世界の人が共通で使えるように「国際動物命名規約」というルールにしたがって付けられた名前、学名(がくめい)です。和名については、日本産アリ類和名シノニムさくいんの項で説明をしますのでそちらをご覧ください。
さて、学名は世界共通のルールに基づいて種ごとに唯一の名前として与えられる名前です。「唯一の」ということは、基本的にはクロヤマアリにはクロヤマアリに、クロオオアリにはクロオオアリに対応する世界共通の名前があるわけです。ところが学名そのものも、また日本語の名前(和名)とこの学名の対応関係も恒久的に安定したものではなく、研究が進むにつれて変化することがあります。わかりやすいところでは、それまで学名が未決定で、sp. XX のようなコードで示されていた種の名前が確定する場合があります。しかし、それ以外にも、既に確定したはずの学名が変更されることもあります。
たとえば、日本のハリナガムネボソアリという種類では、学名は和名一覧(日本蟻類研究会, 1988)ではLeptothorax congruus var. spinosior だったのに、現在のデータベースではTemnothorax spinosior になっています。ハリナガムネボソアリという種自体は変わらないのに、それを示す世界共通唯一の名前だけが変化するなんて変だ!と、思うかもしれませんが、そのようなケースは実際に少なくありません。
こうして学名が変更されるのは次のような場合です。
1)分類学的な研究の成果によって、分類群または学名それ自体に何らかの変化が生じた場合。
2)それまで「日本国内で」一種であると考えられていた種が、複数の種を含むことが分かり何種かに分けられた場合。
3)それまで「日本国内で」複数種だと思われていた種が、実は一種であることが分かり統合された場合。
4)日本のある種に充てられていたそれまでの学名が、実は違う種のものであったことが判明した場合。
こうした変化が頻繁に生じる事を考えると、日本のアリの分類も未だ発展途上にあることが感じられます。しかし、学名を使って報告書などを書いたり、学名が記述された過去の資料を調べたりする際には、学名が変更される事自体が非常に不便です。特に、過去の学名から現在へのつながりは、専門家以外では調べるのすら難しいでしょう。
そこで、ここでは1988年の和名一覧以降、2008年1月現在までを中心に、日本の分布する種に使われた学名を拾い出して現在の最新の学名との対応表(シノニムリスト)を作りました。今後新しい種類が増えたり、新しい変更が生じたりした時には、バージョンアップもしていく予定です。
もし古い資料の中にここには載っていない学名が出てきたら、アリ類データベース作成グループまでお知らせください。次回のバージョンで掲載させていただきます。
<記述例>
現在の学名は太字で表記され、 [ ]の中に所属する亜科や属の名前が入っています。
Temnothorax spinosior (Forel) ハリナガムネボソアリ [フタフシアリ亜科 MYRMICINAE ムネボソアリ属]
古い学名の場合、=の後に太字で現在の学名を表示してあります。
Leptothorax congruus var. spinosior = Temnothorax spinosior
上に挙げた学名が変わる理由のうち、記述例で示したハリナガムネボソアリは1)の場合に当たり、世界中で一括してこの変更がなされました。しかし、それ以降の2)から4)の変更は同定など日本国内で生じる他の要因が関わることで、学名それ自体や世界の分類体系の変化とは無関係に起こる場合があります。このリストは「日本の、和名が付けられたアリ」を主体にしていますので、旧学名=新学名という表記が分類学的なシノニムとは別の意味を含むことに注意してください。
吉村正志・緒方一夫(九州大学熱帯農学研究センター)
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