ひとあじ違う害虫の話(8):アリ 近藤正樹 (白梅学園短期大学教授 理学博士)
グリーンコミュニケーション1996no.13:16-22より許可を得て掲載


「羽アリ」の季節

イエシロアリの羽アリ
(写真=栗林 慧/ネイチャー・プロダクション)
 オスアリやメスアリが空中に飛び出し交尾する現象を結婚飛行と言います。種によって季節や時刻はほぼ決まっていて、一地方で一斉に行われる種もありますし、随時飛行する種、飛行を略して巣内で交尾する種など様々です。

 一番早いのは4月の クロナガアリ、次は5月末の クロオオアリムネアカオオアリ(平地の場合)、6月には クロヤマアリ、7・8月には トビイロケアリ、9月には キイロシリアゲアリシリアゲアリ類、最後は11月初旬の トゲアリと続きます。 トビイロケアリ種は燈火に群飛する傾向があるので、 毎年のように菓子屋さんから苦情が寄せられます。このような場合、セロテープに貼りつけていただければ 種の判定やアドバイスも可能です。 80パーセントのアルコールに入れて届けていただくとさらに好都合です。

 初夏には「シロアリ」も褐色の羽アリを出しますが、前後の羽が等長なこと、羽を落したアリは二匹ずつ列状に歩くので区別できます。こちらは木材の大敵です。


 梅雨のころ台所や風呂場に羽アリが集まることがあります。多くの場合は トビイロケアリのオスアリとメスアリ(結婚前だからムスコとムスメ)です。 木の屑を伴うのでアリにやられたと思う人が多いのですが、この主犯は木材腐朽菌で、木材管理の責任は人間にあります。湿気の多い部分の材には、予め防腐防虫の処理をしておいた方がよいと思います。防虫剤としては強力で永続性のある神経毒剤は避けた方が賢明です。使用が許可されている範囲の薬を時々使う方が安心です。人が住んでいない国宝級の社寺には10年保証といわれる強力な毒剤が散布されています。

 交尾をしたメスアリ(ミセスになりました)は羽を落して産卵生活に入りますが、自力で子育てをする種類、同種の巣に入り込む種など様々です。後者の性質を持つアリは複数のメスの生活に入ります。これを多女王制コロニーと呼んでいます。本来ならハハアリ集団の複合家族と言うべきでしょう。

 また、特定の他種の巣に潜り込み、本家のメスアリろ殺して、本家のハタラキアリの世話で自分の幼虫を育ててもらうコロニー寄生をする種も知られています。 トゲアリムネアカオオアリサムライアリクロヤマアリに寄生します。 特にサムライアリのハタラキアリは幼虫の世話をしないので、メイドとしてクロヤマアリのさなぎを盗まねば 生きていけません。このさなぎ狩の行列を奴隷狩と言っています。

 寄生種のメスアリは腹部がスリムなのが特徴です。