ひとあじ違う害虫の話(8):アリ 近藤正樹 (白梅学園短期大学教授 理学博士)
グリーンコミュニケーション1996no.13:16-22より許可を得て掲載


「アリ」の食べ物

アブラムシをくわえて運ぶアミメアリ
(写真=栗林 慧/ネイチャー・プロダクション)

 大部分の「アリ」は雑食性です。植物の蜜や動物の体液を吸ったり、肉を外口腔で消化して吸っているのです。 ノコギリハリアリはジムカデの体液を吸い、 カドフシアリはササラダニを食べ、 ウロコアリ類はトビムシを、 カギバラハリアリ類はムカデやクモの卵を専門に利用しています。これらのアリは林床の落葉の下に住んでいて、小形で動物食という共通点があります。 ヒメキイロケアリは木の根に沿って巣をつくり、ネアブラムシを飼って甘露をもっらっています。 クロナガアリはイネ科やタデ科の草の実を貯蔵しておいて、皮をむいて、だ液で柔らかくして噛ります。したがって植物食とか動物食とか決めることはあまり本質的ではありません。まとめて言えることは、日常の活動エネルギーとしては炭水化物を消費し、子孫を育てるためには蛋白質やアミノ酸を摂取するということです。 クロヤマアリで調べたところ、そのう一杯のミツを自分だけで消費するのには10日程かかりました。毎日せっせと働いているのは、巣内にいる8割のハタラキアリと幼虫のための餌補給なのです。幼虫が成虫になり消費量が減ると、体内に脂肪が溜まりはじめます。十分脂肪体が発達すれば五か月以上も絶食で生きていけるのです。だから冬のために動物餌を保存する必要はありません。動物餌を保存する能力を持ち合わせていないのです。


 樹液や花蜜を吸っている程度なら問題視されませんが、アブラムシやカイガラムシを保護して甘露をもらう生活もするため農家や園芸家からは敵視されます。アブラムシを食べるテントウムシを追い払ったり、甘露が良く出る位置にアブラムシを運んだりするからです。以前はアブラムシ退治として殺虫剤ばかり使いました。でも運搬役のアリも退治しなければなりません。そのためにはアリの習性を利用した消化阻害剤を併用すると良いでしょう。この物質は人畜無害、すなわち消化方式が違うため安全とされています。この物質を餌とともに巣のメンバーに分け与えると10日以内に巣が全滅すると言われています。ベランダ園芸家には良報といえましょう。

 でも自然界には多様性がある方が健全といわれています。沈黙の世界を求めるための乱用はしないで下さい。

 一般的には「アリ」は害虫とは言えません。多少の利害はあっても、共に暮す仲間と考えて欲しいと思っています。この世には土壌生物のように有機物の無機還元に貢献している掃除屋さんがたくさんいます。「アリ」はこれらの数や量を調整する立場にもあるのです。




図5 ハタラキアリの体内構造
部分は脂肪体
(フォーレルのクシケアリの図より一部改変)