「アリ」の多形現象 |
図3 アリの多形現象
「アリ」も基本的には二性の動物です。染色体数の研究から雄の染色体数はメスの染色体の半数しかないので、未受精卵が発育したものと考えられています。受精卵は本来の染色体数を揃えていてメスになります。ミツバチの性と同様です。
幼虫時代の後期に十分な栄養が与えられれば体が大きくなり卵巣も発達して本来のメスアリになりますが、栄養不足の幼虫は羽がなく卵巣の発達も不十分な小形のアリになってしまいます。この型のアリをハタラキアリと言っています。幼虫のごく最後に栄養が不足した場合、小形のメスや奇形のメスになる種類もありますし、ハタラキアリ用の幼虫でも栄養に恵まれると大形ハタラキアリになる種類もあります。頭が発達し強そうな大あごをもつ大形ハタラキアリをヘイタイアリと呼ぶこともあります。これらはメス性ですから、未発達の卵巣ながらハタラキアリ産卵をすることがあります。もちろん未受精の雄卵です。つまり、オスアリは受精の機会を与えられなかったメスアリからの卵とハタラキアリからの卵から育つということになります。オス性の卵からは多形現象は見られません。
体の半分がオスの形をしていて、反対側の半分がハタラキアリの形をしている奇形が出ることがあります。ひとつの卵から受精部分と未受精部分が発育するわけですから謎の発育です。
メスアリとオスアリには4枚の羽と、光を感ずる単眼があります。
オスアリは複眼の割に頭が小さく、触角の柄節が短く、腹は細長く、小形化している点でメスアリと区別できます。メスアリは胸も腹もふっくらとして大きいので、灯火に飛来した時二種類かと見紛うほど違います。
ハタラキアリは羽がないこと、胸が細いこと、小形なことなどの違いはありますが、メスアリと同じ形態特徴を保持しています。種によってはハタラキアリは単形で、わずかなサイズの差しかないものもありますが、連続的な変異の大きい種や不連続な多形をもつ種もあります。大形ハタラキアリをヘイタイアリと言うこともありますが、戦闘要員という特別扱いはなく、一般労働もします。むしろ分業という点では、成体になってからの日齢や経験が大きく効いているようです。
図4 上,メスアリ 下左,ハタラキアリ 下右,オスアリ