インターネットを利用した生命科学情報の広域データベース化とその意義
日本産アリ類カラー画像データベースの紹介

4.分類学における画像データベースの必要性

 生物分類学は生命科学の基盤であり,生物分類なくして生命科学は成り立たない。また,現代は環境破壊が進む中,種の多様性維持が叫ばれており,今後,生物分類情報への需要は社会的にも増すことが予想される。しかし,生物分類学の現状はそのような期待とはおよそかけ離れている。これまでに発見・記載された生物種は約140万種といわれるが【9】,それらの種の記載を一つにまとめた書物はなく,すべての生物について種名すら確認することは困難である。また,種の判定は,原記載とその元となった模式標本(基準標本)によって行なわれるが,模式標本は世界各地に分散し,参照するのは容易ではない【10】。分類学においては以前から膨大な研究情報をいかに効率的に利用するかが問題になっているのである。
 そこで,模式標本を精緻な画像データに置き換え,それを原記載やその他の分類情報とともに広域データベース化してインターネット上で公開すれば,将来的には分類情報が,いつどこにいても,かつ,誰にもで容易に入手し利用できるようになるはずである。そうなれば,他の様々な分野の研究者および一般の利用者にとって有用なだけでなく,分類学自体の進歩にも大いに貢献すると期待される。
 ただし,画像データベースが従来の模式標本と比べてすべての面ですぐれているというわけではない。画像データベースと模式標本とを比較するとつぎのような違いがある(図2)。

1)画像データベース
利点:コピーが容易なため世界中で誰もが容易に利用できる。文明が維持されるかぎり,情報の劣化なく恒久的に保存できる。数が増えても管理は容易で情報へのアクセスも容易である。欠点:模式標本(基準標本)にくらべると細部のデータがなく情報量は少ない。写真撮影の方向には限りがある。データを見るためにはそれ用のハードウェアが必要でありハード環境が失われたときには利用不可能となる。

2)模式標本(基準標本)
利点:保存対象としては,これ以上の情報を含んでいるものはない(ただし,標本の体色は生体と異なる場合が多い。他にも行動,生態など標本にすることで失われる情報もある)。特別な機器の助けがなくとも肉眼で見ることもできる。欠点:世界中に唯一で,特定の機関に保管されているためアクセスが容易ではない。時とともに劣化は免れず,消失の危険性は常にある。数が増えるにつれ管理が難しくなるし,標本を探し当てるのも容易ではなくなる。

 以上のように画像データベースには長所短所ともにあるので,これらを十分に考慮してデータベース化およびその利用法を考えなくてはならない。

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