ひとあじ違う害虫の話(8):アリ 近藤正樹 (白梅学園短期大学教授 理学博士)
グリーンコミュニケーション1996no.13:16-22より許可を得て掲載


「アリ」と「白アリ」
「アリ」、こんなに短い虫の名は、身近な虫、良く知られている虫だという証拠のようなものです。でも、世界に8800種、日本だけでも258種もいることは御存知ないでしょう。そして、それぞれのアリが、さまざまな暮しをしているのです。


クロオオアリの巣の内部
(写真=海野和男/ネイチャー・プロダクション)

 「赤アリ」「黒アリ」「白アリ」の三種類位は知っているとか、「大きい」「小さい」という区別をして、6種から10種位を想い浮べる方が多いでしょう。しかし、「シロアリ」はアリではありません。ターマイトといわれる縁の遠い虫です。ターマイトには灰色・黒褐色・赤褐色・黄色など色付きの種類があるので改名した方が科学的かもしれません。

 (私はマレイシアで黒褐色のターマイトをシロアリというのにためらいました。ターマイトの語源であるテルミスを活用して「テルミムシ」と提案しましたが、「照美さん」に遠慮して、相変わらず「シロアリ」を使っています。)

 どちらも小型で、群れで生活していて、ハタラキアリ・ヘイタイ・王・女王などとよばれるように同種でも多形が見られるので、いわゆる社会性昆虫として知られているのです。

 でも、進化の道筋はかなり古くから分かれていたものと考えられています。「アリ」は卵→幼虫→さなぎ→成虫と変化する完全変態コースにのって進化しました。そして「ハチ」の一員(膜翅目)となったのです。「シロアリ」は卵→成虫の形に似た小虫→成体と変化する不完全変態の一員で等翅目に属します。

 「アリ」は健康な材木を噛って巣を拡げることはできません。他の虫があけた孔や腐朽菌がカステラ状にした材を噛って巣にすることはあります。したがって木材の害虫といわれるのは迷惑なことでしょう。それに対して「シロアリ」は健康な木材まで噛り、しかもセルローズを分解して栄養にしてしまうのです。